PTSD(Posttraumatic stress disorder:心的外傷後ストレス障害)
①PTSDとは
PTSDとは、Post Traumatic Stress Disorderの略称であり、心的外傷後ストレス障害のことをいいます。
日常生活では体験しないような強いストレスによって、精神に傷を負ってしまい(心的外傷)、これが原因で、日常生活に様々な支障をきたしてしまう障害です。交通事故は勿論のこと、戦争、自然災害、犯罪、暴力、など、非日常的な体験から引き起こされることが多く見受けられます。
PTSDの症状は、①フラッシュバック ②感情の麻痺 ③過敏症状 などが挙げられます。
まず、「①フラッシュバック」は、心的外傷を負うきっかけとなった出来事(トラウマ)が、日常生活の中、突然、鮮明に蘇ってくることをいいます。これは、トラウマを想起させるような状況以外でも生じ、パニック状態に陥ってしまいます。
次に「②感情の麻痺」では、トラウマから心を守ろうと、トラウマを想起させるような状況への必要以上の回避や、外部との接触を避ける行動、トラウマ体験の亡失、記憶力の低下などが挙げられます。
最後に「③過敏症状」では、周囲の環境への過剰反応や、他人の言動に対して敏感になるなど、神経質で感情的に不安定となります。
②どのような交通事故でPTSDが発症したと認められるのか
PTSDは、上記のように「日常生活では体験しないような強いストレス」を受けると誰でも発症すると考えられている症状です。従って、非日常的な出来事である交通事故は、その事故態様に左右されず、体験した誰しもが発症する可能性があり、また、事故の被害者だけでなく、加害者、被害者・加害者の家族、目撃者までもが発症する可能性があるのです。
しかし、実務上、PTSDの要件の一つとして「自分又は他人が死ぬ又は重傷を負うような外傷的な出来事を体験したこと」を求める裁判例がリーディングケースとなっており、裁判上では、軽度な衝突事故や、追突事故では、PTSDが発症したとは認められ辛くなっています。
③後遺症とPTSDとの関係
PTSDは、まず、その発症の有無につき争いが起こりやすい傷病です。
裁判上での、PTSD発症の有無は、以下の要件を満たしているかで判断されます。以下は、大阪地方裁判所の判例からの引用です。
PTSDとは、強烈な外傷体験により心に大きな傷を負い、再体験症状、回避症状、覚醒亢進症状が発生し、そのために社会生活・日常生活の機能に支障を来すという精神的疾患であり、その医学的診断基準として、アメリカ精神医学会が用いるDSM―Ⅳや世界保健機構のICD―10の各基準が用いられているところ、これらの各基準は、交通事故によって当該被害者に生じるストレス症状につき、後遺障害の有無・程度を判断する前提として、PTSDの該当性を判別するものとして有用というべきである。
そこで、本件事故により原告に生じた症状につき、上記各基準が示す①自分又は他人が死 ぬ又は重傷を負うような外傷的な出来事を体験したこと、②外傷的な出来事が継続的に再体験されること、③外傷と関連した刺激を持続的に回避すること、④持続的な覚醒亢進状態にあることの各要件を充たすかどうかについて検討する。(大阪地判平成20年1月23日)
読み取ると、DSM―Ⅳ、ICD―10の診断基準に準拠して、
①自分又は他人が死ぬ又は重傷を負うような外傷的な出来事を体験したこと
②外傷的な出来事が継続的に再体験されること
③外傷と関連した刺激を持続的に回避すること
④持続的な覚醒亢進状態にあること
の4つを重点的に考慮し、PTSD発症の有無を検討する。といった方法になります。
PTSDは、後遺障害等級認定の世界では、「非器質性精神障害」に分類されます。
非器質性精神障害の認定基準は、自賠責法施行令別表2に従うと、下記表の通りとされています。
等 級 | 判断基準 |
---|---|
9級 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、 服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級 | 局部に神経症状を残すもの |
相非器質性精神障害の等級認定につき、より具体的な判断基準つきましては、
こちらのページを参照ください。