Ⅳ 後遺障害等級認定―細目―③下肢の障害
- 1 総説
- (1)下肢、足に後遺障害が発生する主な事故状況と障害の大まかな分類
- (2)追い詰められる被害者の生活-下肢の障害は特にダメージが大きい-
- (3)分類
- 2 機能障害
- (1)大まかな理解
- (2)自賠法施行令上の下肢の機能障害について
- ア 下肢関節の用廃と可動域制限との分類
- イ 下肢の機能障害について等級一覧、簡単な説明
- (3)補足説明
- ア 比較方法~可動域制限(6級、10級、12級など)をどの様に測定するか
-他動運動による測定値を用いる - イ 可動域制限の評価対象となる関節の運動は-各関節の主要運動
- ウ 両足に後遺障害が残った場合
- エ 1級6号、5級7号~「完全強直」~
- オ 6級7号~「完全弛緩性麻痺」「人工関節等挿入後の可動域制限」~
- カ 8級7号、10級11号、12級7号~動揺関節~
- ア 比較方法~可動域制限(6級、10級、12級など)をどの様に測定するか
- 3 欠損障害
- 4 短縮障害
- 5 変形障害
- 6 足指の障害
1 総説
(1)下肢、足に後遺障害が発生する主な事故状況と障害の大まかな分類
下肢、足のケガは、交通事故のうち、徒歩か自転車やバイクに乗っていた時に自動車との接触時によく発生する印象を受けています。下肢の障害は以下、ア~エの障害に分類されています。
- ア どんな検査か
- 生身の身体そのものに自動車が直接衝突してしまうなどして、衝撃で3大関節(股関節、ひざ関節、足関節)付近の骨を骨折し、関節の可動域に制限が残ってしまった(動きの障害)。
- イ 欠損障害
- 下肢の関節の一部が車両の間に挟み込まれてしまうなどして、下肢の全部又は一部を切断せざるを得なかった。
- ウ 短縮障害
- 成長期にある年代の方が3大関節付近の骨を骨折するなどして、症状固定後に足の長さに左右で差が生じてしまった。
- エ 変形障害
- バイクごと跳ね飛ばされて地面に打ち付けられるなどして、半月板などの靱帯を損傷するとともに、骨折したことで下腿骨の一部が変形してしまった。
- オ 足指の障害
- 車両に足を踏みつぶされてしまったり、大きな物が指の上に乗ってしまったりして、足の指を骨折し、足の指に障害が残った。
- カ 腰椎負傷後の下半身の痺れなど局部の神経症状は?
- なお、車両乗車中に追突を受けることで腰を痛め、下半身に痺れが出てしまうという神経症状は、「局部の神経症状」の章をご参照下さい。
- 他にも、衝突しないまでも衝突寸前のところを回避しようとして転倒し腰や足の一部を地面に打ち付けてしまい、痛みや痺れが残ったという症状も「局部の神経症状」に分類されます。下肢の障害には分類されません。
(2)追い詰められる被害者の生活-下肢の障害は特にダメージが大きい-
総じて、下肢に後遺障害を負ってしまうと、身体を動かすこと自体が辛くなり、仕事に復帰することもままならず、家に引きこもりがちです。
その結果、身体中が血行不良となり、気持ちまで滅入ってしまうという悪循環に陥ってしまうなど、生活へのダメージが特に大きいと感じます。
裁判まで起こす場合、1か月半ごとに1回ぐらいのペースで打合せをさせて頂くのですが、下肢の障害事案のお打合せでは、なるべく私の方でご指定の場所へお伺いしています。
季節が巡り、ご依頼をきっかけに通うようになった土地の景色が変わるごとに、「歳月人を待たず」という言葉を思います。総じて、下肢の障害は、なるべく多くの賠償金の支払いを求めるべきではあるのですが、早めに解決した方が良いように感じる類型です。
くじけそうになったとしても、なるべく多くの賠償金を獲得して、生活再建方法を考えていきましょう。
(3)分類
既述の通り、後遺障害の等級は、解剖学を参考にして身体を10の部位に分けたうえ、人体の機能ごとに35系列に細分化されています。系列分けは人体の生理学という学問を参考にして設けられています。
10部位のうちの1つである下肢に残存する後遺障害は、
①(関節の用廃や可動域制限などの)「機能障害」
②(下肢の全部又は一部を失った)「欠損障害」
③(下肢が事故前より短くなってしまう)「短縮障害」
④(大腿骨又は下腿骨等がきっちりゆ合しなかったなどの)「変形障害」
として4つの系列に細分化され、系列ごとに等級認定の運用方法が固められています。
ですから、下肢の障害全てを理解する必要はなく、ご自身の該当する障害に対応する箇所のみを読んで頂ければ結構です。
2 機能障害
(1)大まかな理解
下肢における機能障害とは、3大関節(股関節、ひざ関節、足関節)の動きの障害です。動きの障害には、
①関節の可動域(動く範囲)が制限されてしまった程度によって等級が序列分け(1級~12級)されているのと、
②動揺関節といって、膝のぐらつき具合に着目して等級の序列分け(8級~12級)がされている(機能障害に準じて扱う)のと、
③人工関節・人工骨頭を挿入せざるを得なかった点に着目して等級の序列分け(6級~10級)が含まれています。
被害者としては、例えば、関節の可動域制限で目標としている等級が認定されなかったとしても、動揺関節として目標とする等級が認定されないか、検討していく余地が残ります。特に関節の動揺についての認定基準は一義的に明確とはいえないため、実質的な審査基準を把握している専門家のニーズが生まれるのです。
(2)自賠法施行令上の下肢の機能障害について
- ア 下肢関節の用廃と可動域制限との分類
- 下肢の機能障害も通常の等級についての考え方と同様に、労働能力喪失の程度によって1級6号、5級7号、6級7号、8級7号/10級11号、12級7号と等級に序列が設けられています。
- 自賠法施行令に下肢の①機能障害として分類されている障害については、理解の便宜のため、大きく
①-ⅰ下肢関節の全廃、用廃(1級6号、5級7号、8級7号)
②-ⅱ一関節の一部の可動域制限(10級11号、12級7号)
の2つに分けて考えることが出来ます。
- イ 下肢の機能障害について等級一覧、簡単な説明
(3)補足説明
関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定は、労災補償「障害認定必携」に評価方法及び測定の要領が定められています。以下、同要領から補足説明を試みます。
- ア 比較方法~可動域制限(6級、10級、12級など)をどの様に測定するか
-他動運動による測定値を用いる - 機能障害として等級を判断するうえで、関節の可動域制限の測定は、原則として自動運動(被害者が自分の力で関節を動かす)ではなく、他動運動(外から力を加えて動かす≒痛がる所を外から強引にでも動かしてみて動くかどうか判定する)によって測定がなされる。
- 測定された可動値の信用性は、可動域制限の裏付けとなる器質的損傷についての画像所見の内容と測定値との整合性が有るか否かで判断されます。
- イ 可動域制限の評価対象となる関節の運動は-各関節の主要運動
各関節の運動は主要運動と参考運動に分類されるが、可動域制限を理由とする等級認定にあたっては、評価の対象となる関節の運動は、主要運動です。主要運動とは、下記の通り、各関節における日常の動作にとって最も重要な動作を言います。
『各関節の主要運動』
・股関節=屈曲・伸展、外転・内転。(参考運動は外旋・内旋)
・ひざ関節=屈曲・伸展
・足関節=屈曲・伸展
※主要運動が複数ある股関節では、主要運動のいずれか一方の可動域が1/2、3/4以下に制限されていれば10級ないし12級が認定される。
※参考運動を評価対象とする場合=股関節の主要運動の可動域が1/2又は3/4をわずかに(原則5度)上回る場合(惜しい場合)、参考運動が1/2又は3/4以下に制限されている場合、10級ないし12級が認定される。
- ウ 両足に後遺障害が残った場合
- 下肢・足の両側に後遺障害を負ってしまい、比較が難しい場合、参考値を用いる
- エ 「全廃」=「強直」:~1級6号、5級7号~
- ①(完全に)強直したとは、関節が全く可動しないか、またはこれに近 い状態(10程度以下)をいう。
- オ 「完全弛緩性麻痺」「人工関節等挿入後の可動域制限」:~6級7号~
- ①「完全弛緩性麻痺、これに近い状態」とは、他動では(外から力を加えれば)可動するが、自動では健側の関節可動域の10%程度以下になったものをいう。
- ②「人工関節・人工骨頭(大腿骨頭が多いです)を挿入・置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの」
- ※「健側」とは、下肢のうち障害が残っていない側のこと、逆に障害が残存した側を患側といいます。
- ■余談
- 人工関節・人工骨頭を挿入した場合の後遺障害の認定については、身体障害者福祉行政の在り方につき、「置換術後の経過安定時の機能障害の程度により判定すべきではないか」(≒医療技術が進歩してきたから、人工関節をいれた後に安定している様だったら補償の程度を下げる方向で改正しようか)等という議論がなされているところです。
- 自賠責後遺障害等級認定基準の在り方も、人工関節等の技術進歩にあわせて平成16年に変更がなされたところなのですが、今後の医療技術の進歩によってはまだまだ変わりうるところなのかもしれません。
- カ 「動揺関節」:~8級7号、10級11号、12級7号~
- ⅰ 動揺関節とは
- 動揺関節とは、(靱帯損傷や骨癒合の不全、関節面形態など)器質的な原因によって、関節の安定性が損なわれたことにより、関節が正常とはいえない方向に運動するようになってしまった関節をいいます。
- ⅱ 認定基準
- 8級=常に硬性補装具を必要とするもの
- 10級=時々硬性補装具を必要とするもの
- 12級=重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないもの
- ⅲ どう判定しているのか
- 「常に」なのか「時々」なのか「重激な~」の区別は不明確なところであり、認定基準の判断はやや微妙なところだと思っています。
- ■骨折により、脛骨などの骨の関節面の陥没・変形癒合を伴う場合→陥没・変形癒合している面積が10mm以上→後遺障害10級、10mm未満→12級
- ■骨折まではしていない が、後十字靱帯、側副靱帯などの靱帯損傷により関節の安定性が損なわれている場合→後遺障害12級か後遺障害14級か(12級か14級かの分かれ目は、経験としては、靱帯断裂が完全断裂か部分断裂かなど靱帯損傷の程度問題だと理解しています。)
- 裁判でも動揺関節については保険会社から後遺障害の程度について争 われることが多々あります。過去の裁判例の傾向としては、
- ①主治医の意見書
- ②主治医の意見書記載内容の信用性を裏付けるストレスXP、MRI、関節内視鏡検査、
- ③徒手検査(内側側副靱帯や外側側副靱帯や前十字靱帯、後十字靱帯) 等の結果、
- ④医師の判断により必要とされている補装具は硬性補装具なのか軟性補装具なのか
- 動揺関節を理由に後遺障害の等級を争う場合、最初のポイントとしては、<骨性の動揺関節を主張するのか><靱帯損傷による動揺関節>を主張するのかで何等級の認定を狙うのかを把握する。そのうえで、
- 骨折後の変形癒合等による動揺関節を主張するのであれば、変形後の骨の形状をCTスキャンなどによって3D画像の様に立体的にわかりやすく映し出す画像をとってくるなどの工夫をする必要性の有無を検討すべきです。
- 靱帯損傷を原因とすると主張するのであれば徒手検査(外反ストレステスト、内反ストレステスト、前方引き出しテスト、ラックマンテスト、後方引き出しテスト)の結果から、どこの靱帯がどの程度損傷し、どの様な機序で関節が不安定となっているのか証拠上はっきりさせるべきだと考えています。
3 欠損障害
下肢の欠損障害とは、下肢の一部を失うことであり、喪失の程度によって認定される等級に序列が設けられています。
※「離断」とは、関節部から切れることです。
※「切断」とは、関節部以外の部分から切れることを指します。
4 短縮障害
下肢の短縮障害とは、下肢の一部が事故前に比べて短くなることであり、短縮の程度によって認定される等級が異なります。
成長期にある年代の方が下肢に骨折等をしてしまい、症状固定後に足の長さに左右差が生じてしまうというのが典型的なパターンかと認識しています。
5 変形障害
変形障害とは、「偽関節を残すもの」か「長管骨にゆ合不全を残したもの」をいいます。
※偽関節 | 骨折の重篤な後遺症のひとつで、骨折部の骨癒合プロセスが完全に停止したもののことをいいます。 |
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※長管骨 | 骨の分類の仕方として、骨を形で分類したときの一つで、細長い棒状の形をしていて内部が空洞で管になっている骨のこと。大腿骨、脛骨、腓骨など。 |
※外旋45度以上又は内旋30度以上回旋変形癒合:
外旋変形癒合にあっては、股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形癒合にあっては股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと
X線写真等により、明らかに大腿骨の回旋変形癒合が認められること