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1 後遺障害の等級認定とはどの様なものなのか

(1)法律上の定めは抽象的
  ア 自賠法13条、施行令2条の定め(法律上の根拠)と弁護士事務所の役割
  イ 弁護士事務所の役割、むち打ち症による等級認定が問題となる場合

(2)後遺障害等級表は、どういうものなのか
  ア 歴史
  イ 等級の類型
  ウ 自動車事故で実際に数が多い後遺障害


2 誰が後遺障害等級を認定するのか

(1)損害調査事務所

(2)後遺障害等級認定の申請と等級の認定
  ア 症状固定に至り、後遺障害診断書の作成
  イ 後遺障害等級認定の申請


3 後遺障害等級認定を受けるとどういうメリットがあるのか

(1)メリット

(2)後遺障害等級認定された場合、後遺障害慰謝料の金額は?(裁判基準)

(3)後遺障害等級認定された場合、逸失利益の算定は?(裁判基準)


■コラム 法律と政令の関係
      ~なぜ、自賠法ではなく政令で細かく定めているのか~

1、後遺障害の等級認定とはどの様なものなのか。

(1)法律上の定めは抽象的で、一般人には、よくわからない様に定められていること

 後遺障害の等級認定を受けると、認定された等級に対応して定められている自賠責保険金の支払いを受けることが出来ます。また、後遺障害慰謝料や逸失利益等を支払ってもらえるので賠償金の金額が跳ね上がります。

 これらのこと自体は、多くのサイトで説明されていることですが、法律上の正確な定めは下記の通りです。

ア 自賠法13条、施行令2条の定め(法律上の根拠)と弁護士事務所の役割

自賠法13条

自賠法13条には、「責任保険の保険金額は、政令で定める」との旨が定められており、この規定を受けて施行された自賠法施行令2条には、「自賠責保険金の金額は、別表第一、別表第二に定めた等級に対応する保険金額とする」と、パッとみただけではわからないように定められています。

 そして、自賠法施行令末尾に記載されている別表第一、第二という表には、例えば、後遺障害1級に該当する後遺障害はどの様なもので、自賠責保険金は3000万円であり、14級に該当する後遺障害はどの様なもので、自賠責保険金は75万円であるとして、これもまた一見しただけではよくわからない基準が並べられています。


弁護士事務所の役割は・・・・

イ 弁護士事務所の役割、むち打ち症による等級認定が問題となる場合

等級認定

 例えば、むち打ち症の場合、頸部の痛み、痺れなどの神経症状が後遺障害14級か12級に該当するのが問題となるのですが、別表に定められた基準は「局部に神経症状を残すもの(14級9号)」か「局部に頑固な神経症状を残すもの(12級13号)」といった具合に抽象的に定められています。これは、ある程度抽象化しておかないと、判断がバラバラになりかねず、基準として機能するために仕方がないことなのです。

 しかし、一般の方にとってみれば、14級9号と12級13号の違いが明確にはわからない様になっているとも言えます。損害保険会社から後遺障害等級認定の連絡が届くと、「難しいことが書いてあるけど、なんだかよくわからないな。」という感想を持たれ、結局、多くの方は泣き寝入りしていると思われます。

 この「よくわからないな。」という感想に対して、「抽象的な基準は、具体的には、こう解釈されるものだから、異議を申し立てる余地は、『あるよ。』『ないよ。』『ないけど、こうすれば良いよ。』とご助言差し上げるのが弁護士事務所の役割の1つです。

(2)後遺障害等級表は、どういうものなのか

後遺障害等級表は、どういうものなのか

補足:別に知らなくてもいいのですが・・・


ア 歴史

 自賠法施行令の別表一、二には、後遺障害の各等級として約140種類の類型が定められています。この等級の類型表は、自賠法が定められた昭和30年に突如現れたものではなく、もともとは、昭和22年に施行された労働者災害補償保険法施行規則の別表第一障害等級表(いわゆる労災保険給付のために定められたもの)を利用したもので、その後、数回の改正を経て現在に至っています。

 障害補償制度の歴史を更に遡っていくと、明示初期の産業振興政策の中心であった官営工場の労働者を対象とした諸手当の規則や、明治25年施行の鉱業条例の中の鉱山開発に従事した鉱夫に対する補給金に先祖を見いだすことが出来るとも言えます。
昭和30年に施行された自賠法、自賠法施行規則別表1、2の後遺障害等級表に、目の障害や手指の切断という自動車事故ではあまり負わないような障害まで程度を細かくわけて詳細に定められているのは、別表1、2が労働者災害補償の歴史を経て定められた表に準拠しているからとも言えるでしょう。


イ 等級の類型

ⅰ まず、身体の部位を10部位に分類

等級の類型

 後遺障害の等級は、「ⅰ眼、ⅱ耳、ⅲ鼻、ⅳ口、ⅴ神経系統の機能又は精神、ⅵ頭部・顔面・頸部、ⅶ胸腹部臓器(生殖器)ⅷ体幹、ⅸ上肢、ⅹ下肢」と身体の部位を10部位に分けた(解剖学の考え方で分けているそうです)うえ、

ⅱ 次に、機能ごとに35系列に分類

 10個の各部位の(生理的な)機能ごとに全部で35系列に分類し(例えば、眼ならば、①視力障害、②調節機能障害、③運動障害・・・)、

ⅲ ランク付け

 労働能力喪失の程度によって1級~14級に序列が付けられています。 序列が高いほど、被害の程度は重く、これに伴い補償も厚くするという制度になっています。


ウ 自動車事故で実際に数が多い後遺障害

 実際に自動車事故において残存する後遺障害で最も数が多いのは、追突によるむち打ちで、頸椎や腰椎捻挫後の神経系統の障害に分類されるものです。

2、誰が後遺障害等級を認定するのか~損保料率機構損害調査事務所~

(1)損害調査事務所

 既に述べた通り、交通事故が発生し、症状固定に至った後も、負傷部位に痛みや神経症状、可動域制限が残存する場合、被害者請求として後遺障害等級認定を受けるべきです。

 残存する症状が後遺障害等級のどの等級に該当するかの認定を行うのは、「損害保険料率算出機構 損害調査事務所(損害保険料率算出団体に関する法律に基づく)」という機関です。

(2)後遺障害等級認定の申請と等級の認定


ア 症状固定に至り、後遺障害診断書の作成

後遺障害診断

 医師によって、症状固定に至ったと判断された場合、任意保険会社から「自動車損害賠償責任後遺障害診断書」の書式を入手したうえ、症状固定と判断を下した医師に「後遺障害診断書」を記入してもらいます。

 自賠責の後遺障害等級認定作業は、画像や書面の記載のみから判断し、本人と医師との面談はないため、この後遺障害診断書の記載事項が重要な意味を持ってくるのです。だから、主に後遺障害等級認定を専門とする行政書士さんのサイトには、好ましい後遺障害診断書の記載内容について記載されているところが多いのです。

イ 後遺障害等級認定の申請

 後遺障害等級認定の申請は、下記必要書類と画像を自賠責保険会社に送付することで始まります(自賠法16条に定める被害者請求の場合)。

必要書類

①自動車損害賠償責任保険支払請求書兼支払指図書

②交通事故証明書、事故発生状況報告書

(事故の発生を証明し、事故状況を特定するための書類として)


③診療報酬明細書及び診断書(毎月発行されるもの)

(治療経過、愁訴、診断内容の一貫性を判断するための書類として)


④後遺障害診断書

(労災と異なり、自賠責損害調査では被害者本人と判定をする医師との面談は実施されず、後遺障害診断書に記載されている事項が重要な判断材料となります。)

⑤画像(レントゲン、MRI等)

 自賠責保険会社は、受け取った書類を、全国の都道府県庁所在地等に設置された「損保料率機構 ●●(仙台とかさいたまとか名古屋等・・・)損害調査事務所」へ送付し、書類を受け取った「調査事務所」が提出書類をチェックしたり、主治医への照会を行ったりして、被害者の症状を把握し、残存する障害が自賠法施行令第2条別表第2のどの等級に該当するのかを認定します。

損害調査

3 後遺障害等級認定を受けるとどういうメリットがあるのか

(1)メリット

 既に述べた通り、大きなメリットは下記の通りで、認定を受けた場合、自賠責保険金で当面の生活費を確保しつつ、裁判所基準で計算された後遺障害慰謝料、逸失利益等の支払いを受けるべく交渉を続けるべきです。

ア 自賠責保険金を受領できる。被害者請求ならば保険金の
  一部を先取り出来る。

イ 等級に応じた後遺障害慰謝料の支払いを受けることが出来る。

ウ 等級に応じた逸失利益の支払いを受けることが出来る。

エ 認定された等級が高い場合、補装具の買換費用や将来介護費などの
  支払いも受けうる。

(2)<後遺障害等級認定された場合、後遺障害慰謝料の金額は?(裁判基準)>

 下記表は、東京地裁の交通事故専門部である民事27部の運用基準ですが、全国の裁判所で似たような金額が採用されています。

後遺障害慰謝料

(3)後遺障害等級認定された場合、逸失利益の算定は?(裁判基準)

既に述べた通り、逸失利益は、下記の算定式によって求められます。

逸失利益の算定

①基礎収入  

は、原則として事故前年の年収を用います。



②生活費控除 

は、後遺障害の等級によって次の表に記載された喪失率を一応の基準として計算されます。


③就労可能年数

は原則として67歳までとされていますが、最も数が多いむち打ち症では5年程度に制限されます。
 後遺障害の等級が高ければ高いほど労働能力喪失率の値が一般には高くなるため賠償金の金額は高くなっていくのです。等級が高いほど、被害の程度が重いのですから当然の結果といえば当然の結果ですね。



労働能力喪失率

■コラム:法律と政令の関係
     ~なぜ、自賠法ではなく政令で細かく定めているのか~


後遺障害診断

 「後遺障害の等級認定」の説明の中で、自賠法という法律で自賠責保険金や後遺障害についての基本的な事柄が決められていると説明しましたが、等級の詳細については自賠法施行令という政令で定められているとも説明しました。

 <自賠法という法律で全て細かく定めていないのは何故でしょうか。>これは、「法律」と「政令」というものが、それぞれ果たしている役割が違うからなのです。


1 「法律は国会で定められる」ということはどの様なシステムといえるのか。


後遺障害診断

 終戦後に日本国家の基本的な在り方を定めた日本国憲法は、法律については「国の唯一の立法機関(憲法41条)」とされる国会(衆議院と参議院の2つの議院で構成されている。)で定めるという制度を採用しました。国会が定めるという点で、議会の協賛をもって天皇が立法を行うとされた明治憲法とは異なる制度になったのです。

 すなわち、国民の権利(を与えたり、制限したり)や義務(例:所得税の納付義務を定めるとか)を定める一般的なルールである「法律」はすべて、国民が選んだ代表者(国会議員、自民党とか民主党とかみんなの党などといった政党に所属している国会議員)の集まりである国会だけに制定する権限を与えるとされています。

 法律の制定は、社会に与える影響が大きいので国民が自分達で選んだ議員が十分に(?)議論したうえで、賛成が得られることを条件にして、不合理な内容の法律によって不当に制限を受けたりする人が生まれる可能性を出来るだけ低くしようと狙っているのです。

 このシステムは、特定の貴族や大名家の中から選ばれる特定の人達や特定の血筋を引いた者だけが、ご法度やお触れ書き、法律を定める権限を独占する様な制度よりは、システムとしては優れている一面が確かにあると言えます(民主主義の大原則などと言われます)。



2 法律で何でもかんでも定めるのは、効率が悪く、変化に迅速対応できないこと


法律

 ところが、法律の内容をこと細かく網羅的なものに定めてしまうと、刻一刻と変化している社会情勢の変化によって法律の内容が実情とそぐわなくなってきた場合に問題が起こってきます。すなわち、社会情勢の変化にあわせて、社会の仕組みを変えようとしても、イチイチ国会での審議をしないと法律の規定は改正できないので(国会で反対意見を出す議員もいるでしょうし、牛歩戦術とか色んなことをする議員もいますから)、迅速に対応できるとは言い難いのです。法律の改正には、法律の制定と同じく、慎重な判断がなされることを意図して衆議院と参議院という2つの議院で構成される国会での審議を必要とする仕組みになっているので、膨大な手間と時間がかかってしまうのです。

 民主主義という制度の長所を活かしつつも、迅速に社会情勢の変化に法律の内容を適応させていくためには、制度の根幹部分のみを法律で制定し、細かい部分については、法律より下位に位置付けられるルール・規範によって定める仕組みになっていた方がより変化に対応できる社会といえます。こうした要請に応えるための制度が政令なのです。



3 行政機関が政令を定めることで、社会情勢の変化に素早く対応する仕組み


行政機関

 政令とは、~省、~庁として社会情勢を専門的に集めている行政機関(役所、中央官庁)によって構成される内閣が制定する命令という形式の法令の一種で、法律の委任の範囲内で法律の細かい部分を定めるという役割を担っています。ただし、~省、~省といった行政機関は選挙で選ばれた人達で構成されているわけではないので、政令は、どのような内容でも好き勝手に制定できるものではなく、法律の委任の範囲内のものである必要があるとされています。そうでないと実質的に実務を取り仕切っていることが多い~省の課長さん達は選挙を経て選ばれているわけではないので、民主主義が意図していることが実現できなくなってしまう危険性があるからです。

 政令の制定手続は、国会ではなくて内閣の閣議によって決定されるものであるため、法律に比べると迅速に内容の決定・変更ができるようになっている点で、社会情勢に合わせた迅速な対応が可能となる仕組みといえます。

 つまり、法律と政令の関係は、規定の根幹に関わる部分については法律が規定し、その他の詳細な計算や手続など法律の考え方を現実に実現していくにはスピードや、よりマニアックな専門知識が要求される事項については政令が規定するというように、役割分担をしているという関係にあります。



4 後遺障害等級認定の認定基準の変更について~自賠法施行令~


 自賠責保険制度については、昭和30年に国会が定めた自動車損害賠償保障法という国会が定めた法律によって、「人身事故の被害者は、最低限度の補償を必ず受けられるようにしよう。」といった根本的な事柄が定められ、どういう場合が後遺障害○級で、自賠責保険金はいくらだというマニアックな議論については、自賠法を所轄する役所である国土交通省の定めた自賠法施行令という政令で定められています。

 ところで、自賠法施行令には、かつて、顔の傷跡などの醜状痕については男女差を設けるという扱いをする規定がありました(醜状痕が残った場合、より女性の方が被害は重いという扱い)。ところが、平成22年6月に、外貌の醜状痕の取り扱いについて男性よりも女性の場合に補償を厚くする内容の規定が、国の最高法規である憲法が約束する「法の下の平等」に違反した不合理な区別だという価値判断がとある裁判所から示されました。さらに外貌の醜状に関する医療技術の進歩も進んできて、かつては消せなかった傷跡も結構消せるようになってきたりしました。この様な社会情勢の変化を受けて、醜状痕についての障害等級の扱いが見直されることになったのです。すなわち、平成23年5月に醜状痕の後遺障害認定について男女の区別なく扱うように自賠法施行令が変更されたのです。

 他にも、平成16年には、人工関節等の医療技術の進歩という専門的な議論を尽くしたうえ、関節の機能障害についての等級認定の基準に変更がなされたこともあります。

 等級の詳細について、自賠法施行令ではなくて、自賠法という法律で定める仕組みになっていたとすれば、裁判所の判断を受けての認定基準の速やかな変更であるとか、人工関節という医療技術がどの程度進歩して被害者の関節の機能障害はどの程度押さえられるようになってきたというマニアックな議論に応じた認定基準の変更は出来なかったはずです。

 脳脊髄液減少症など見るからにお気の毒と感じる症例など、現状の認定基準は何とかならないものか、と思うところが多々あります。行政が認定基準を改正するきっかけとなるような画期的な判決を勝ち取ることは、弁護士業務に人生をかけている者の目標の1つになり得るものです。

自賠法施行令

 そういった大なる目標は、死ぬまで新しい知識を習得するために勉強をし続けることと、ご依頼頂いた案件を1つ1つコツコツと解決し続けることで業界の競争を生き抜くことの先にあるのだろうなと思っています。

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