Ⅳ 後遺障害等級認定―細目―④-ⅱ 上肢の障害
- 1 総説
- (1)上肢の障害とはどの様なものか
- (2)上肢の障害についての分類
- 2 機能障害
- (1)大まかな理解
- (2)自賠法施行令上の上肢の機能障害について
- ア 上肢関節の用廃と可動域制限との分類
- イ 上肢の機能障害について等級一覧、簡単な説明
- (3)補足説明
- ア 比較方法~可動域制限(6級、10級、12級など)をどの様に測定するか-他動運動による測定値を用いる
- イ 可動域制限の評価対象となる関節の運動は-各関節の主要運動
- ウ 両足に後遺障害が残った場合
- エ 1級6号、5級7号~「完全強直」~
- オ 6級7号~「完全弛緩性麻痺」「人工関節等挿入後の可動域制限」~
- カ 8級7号、10級11号、12級7号~動揺関節~
- 3 欠損障害
- 4 変形障害
1 総説
(1)上肢の障害とはどの様なものか
ア イメージとしては、「腕を骨折した後に痛み等が残るもの」
上肢とは、人間の上腕、前腕、手を含めた腕や手のことで、上肢・手指の後遺障害は、3大関節(肩関節、肘関節、手関節)と手指の障害です。
交通事故によって、上肢帯(鎖骨、肩甲骨)か自由上肢(上腕骨、橈骨、尺骨、手根骨、中手骨、指骨)のいずれかの骨を折ってしまったり、脱臼したりした後、医療用の釘(ボルト)を使う等して治療したものの、痛みや可動域制限、骨のゆ合不全が残ってしまうというのが典型的なパターンだと思います。
上肢の後遺障害が発生する状況は、まちまちですが、私の印象としては、自転車やバイクに乗っていた時に転倒した時や、徒歩ないし自転車で通行中に腕のどこかが車両と直撃した際に発生するという印象を受けています。
イ 神経系統の障害とは別個独立の後遺障害であること、3系列に細分化
なお、鎖骨や橈骨(トウコツ)を痛めた後、橈骨神経や尺骨(シャッコツ)神経などに痺れが生じてしまった場合、各神経の麻痺は、「神経系統の後遺障害」として、上肢の後遺障害とは別系統の障害に分類されます。つまり、神経系統の障害と上肢の障害は、それぞれ独立に後遺障害の等級認定の対象として審査されるのです。
局部の神経症状としての後遺障害等級認定がなされても、労働能力喪失期間について制限されるのが一般的な運用であるため、出来ることなら上肢の機能障害等として後遺障害等級認定を受けておきたいところです。
上肢・手指の後遺障害は、「機能障害」「欠損障害」「変形障害」の3つの系列に細分化されています。
(2)分類
上肢に残存する後遺障害としては、
①(関節の用廃や可動域制限などの)「機能障害」
②(上肢の全部又は一部を失った)「欠損障害」
③(骨のゆ合不全などの)「変形障害」
が上肢の障害として3つの系列に分けられています。ご自身の該当する後遺障害の状況のところを読んで頂ければ結構です。
2 機能障害
(1)大まかな理解
上肢における機能障害とは、3大関節(肩、肘、手)の動きの障害です。動きの障害には、
①関節の可動域が制限されてしまった程度によって等級が序列分け(級~級)されているものと、
②人工関節・人工骨頭を挿入せざるを得なかった点に着目して等級の序列分け(級~級)されているものが含まれています。
(2)自賠法施行令上の上肢の機能障害について
ア 上肢関節の用廃と可動域制限との分類
自賠法施行令に上肢の①機能障害として分類されている障害については、理解の便宜のため、大きく
①-ⅰ上肢関節の全廃(1級6号、5級7号、8級7号)
①-ⅱ一関節の一部の可動域制限(10級11号、12級7号)
の2つに分けて考えることが出来ます。
上肢の機能障害も通常の等級についての考え方と同様に、労働能力喪失の程度によって1級6号、5級7号、6級7号、8級7号/10級11号、12級7号と等級に序列が設けられているのです。
イ 上肢の機能障害について等級一覧、簡単な説明
(3)補足説明
関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定は、労災補償「障害認定必携」に評価方法及び測定の要領が定められています。以下、同要領から補足説明を致します。
ア 比較方法~可動域制限(6級、10級、12級など)をどの様に測定するか~他動運動による測定値を用いる~
機能障害として等級を判断するうえで、関節の可動域制限の測定は、原則として自動運動(被害者が自分の力で関節を動かす)ではなく、他動運動(外から力を加えて動かす)によって測定がなされます。
例外として、神経叢(しんけいそう:神経細胞が密集している部分)損傷による麻痺は、自動値をもって障害認定となります。 争いが生じるポイントは、測定された可動値の信用性が有るのか否かという点です。可動域制限の裏付けとなる器質的損傷についての画像所見の内容と測定値との整合性が有るか否かが信用性の有無を判断する重要な要素となります。
イ 可動域制限の評価対象となる関節の運動は ~各関節の主要運動~
各関節の運動は主要運動と参考運動に分類されるが、可動域制限を理由とする等級認定にあたっては、評価の対象となる関節の運動は、主要運動です。主要運動とは、下記の通り、各関節における日常の動作にとって最も重要な動作を言います。
『各関節の主要運動』
・肩関節=屈曲/外転・内転。(参考運動は伸展/外旋・内旋)
・ひじ関節=屈曲・伸展
・手(腕)関節=屈曲・伸展
・前腕=回内・回外
※屈曲:曲げる。伸展:伸ばす。
※主要運動が複数ある股関節では、主要運動のいずれか一方の可動域が1/2、3/4以下に制限されていれば10級ないし12級が認定される。
※参考運動を評価対象とする場合=股関節の主要運動の可動域が1/2又は3/4をわずかに(原則5度)上回る場合(惜しい場合)、参考運動が1/2又は3/4以下に制限されている場合、10級ないし12級が認定される。
ウ 両腕に後遺障害が残った場合
上肢・腕の両側に後遺障害を負ってしまい、比較が難しい場合、参考値を用います。
エ 1級4号、5級6号~「用を全廃した」
①「用を全廃した」=(完全に)強直したとは、関節が全く可動しないか、またはこれに近い状態(10度以下程度)をいいます。
②「上腕神経叢の完全麻痺」:バイクの転倒事故などで肩と側頭部で着地したり、肩関節を脱臼したりすることなどにより、上腕神経叢が伸張され、損傷すると、程度により麻痺等が生じる場合があります。
オ 6級6号~「完全弛緩性麻痺」「人工関節等挿入後の可動域制限」~
①「完全弛緩性麻痺、これに近い状態」とは、他動(外から力を加えれば)可動するが、自動では健側の関節可動域の10%程度以下になったものをいいます。
②「人工関節・人工骨頭を(肩甲骨等に)挿入・置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの」をいいます。※「健側」とは、上肢のうち、障害が残っていない側のこと、逆に障害が残存した側を患側といいます。
~余談~
人工関節・人工骨頭を挿入した場合の後遺障害の認定については、身体障害者福祉行政の在り方につき、「置換術後の経過安定時の機能障害の程度により判定すべきではないか」等として(障害福祉手帳の交付条件を厳しくする方向性での)議論がなされているところです。自賠責後遺障害等級認定基準の在り方も、人工関節等の技術進歩にあわせて平成16年に変更がなされたところなのですが、今後の医療技術の進歩によってはまだまだ変わりうるところなのかもしれません。
3 欠損障害
上肢の欠損障害とは、上肢の一部を失うこと(切断、離断)であり、喪失の程度によって、認定される等級が序列付けされています。
※「離断」とは、関節部から切れることです。
※「切断」とは、関節部以外の部分から切れることを指します。
4 変形障害
(1)上肢の変形障害の分類
上肢の変形障害とは、「偽関節を残すもの」又は「長管骨にゆ合不全を残すもの」をいいます。
※偽関節 | 骨折の重篤な後遺症のひとつで、骨折部の骨癒合プロセスが完全に停止したもののことをいいます。本来、正常な骨の形状として曲がらない箇所で曲がってしまう状態。痺れや麻痺が生じる。 |
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※長管骨 | 骨の分類の仕方として、骨を形で分類したときの一つで、細長い棒状の形をしていて内部が空洞で管になっている骨のこと。上腕骨、橈骨、尺骨など。 |
(2)解説
ア 7級9号 (一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの)
7級9合の認定には、次の①、②、③すべての条件を満たす必要があります。
①「一上肢に」=片方の腕に
かつ
②「偽関節を残し」
=ⅰ上腕骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの OR
=ⅱ橈骨及び尺骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの
③「著しい運動障害を残すもの」
=常に硬性補装具を必要とするもの
※骨の癒合不全に加え、常に補装具が必要となる程度の運動障害が必要な点が7級9号の特徴です。運動障害がない場合は、8級8号以下。
イ 8級8号 (一上肢に偽関節を残すもの)
8級8号の認定には、次の①、②の条件を満たす必要があります。②の条件はⅰ~ⅲまでのいずれか1つの条件を満たせば足ります。
①「一上肢に」=片方の腕に
②「偽関節を残すもの」
=ⅰ 上腕骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すものOR
=ⅱ 橈骨及び尺骨の両方の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの OR
=ⅲ 橈骨又は尺骨のいずれか一方の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもので(かつ)時々硬性装具を必要とするもの
※硬性補装具が不要な場合は、12級8号の③参照
ウ 12級8号 (長管骨に変形を残すもの)
12級8号の認定条件である、上肢の「長管骨に変形を残すもの」とは次の①~⑥です。
①(骨の変形パターン)
Ⅰ 次のいずれかに該当する場合であって、
ⅰ 上腕骨に変形を残すもの
ⅱ 橈骨及び尺骨の両方に変形を残すもの(ただし、橈骨又は尺骨のいずれか一方のみの変形であっても、その程度が著しいものはこれに該当する)
かつ
Ⅱ 外部から想見できる程度(15度以上屈曲して不正ゆ合したもの)以上のもの
②(上腕骨、橈骨、尺骨の骨端部の癒合不全)
上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部に癒合不全を残すもの※骨幹部、骨幹端部ではなく、骨端部
③(橈骨、尺骨の骨端部、骨幹端部の癒合不全)
橈骨又は尺骨の骨幹部等に癒合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
※時々、硬性補装具を必要とする場合は、8級8号を参照
④(骨端部のほとんど欠損)
上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
※一上肢を手関節以上で失ったものは、欠損障害として5級4号
⑤(上腕骨、橈骨、尺骨の直径減少)
上腕骨(骨端部を除く)の直径が3分の2以下に、又は橈骨もしくは尺骨(それぞれ骨端部を除く)の直径が2分の1以下に減少したもの
⑥(上腕骨の変形癒合)
上腕骨が50度以上の外旋または内旋変形癒合しているもの
※50度以上回旋変形癒合しているとは
ⅰ | 外旋変形癒合にあっては、肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと。内旋変形癒合にあっては、肩関節の外旋が10度を超えて運動できないこと。 |
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ⅱ | X線写真等により、上腕骨幹部の骨折部に回旋変形癒合が明らかに認められること。 |
⑦-TFCC損傷
TFCCとは、「三角線維軟骨複合体」のことをいいます。
TFCCを構成するのは以下の4つ靭帯です。
①尺骨三角骨靭帯
②尺骨月状骨靭帯
③掌側橈尺靭帯
④背側橈尺靭帯
TFCC損傷はこの靭帯が傷つき発症するといわれています。病院で詳しい検査をせず、手首の捻挫と診断される場合も少なからずあり、「長期間手首が痛む」「一度痛みが緩和したけれどまた痛んできた」という方はこの症状を疑い、検査をされた方が良いかもしれません。