Ⅱ-③ 交通事故の加害者が負う刑事責任について~目次~
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- (1)負傷事故(交通)の加害者に宣告される刑の相場
- (2)死亡事故(交通)の加害者に対する宣告される刑のみたて-だいたいの感覚
- (3)裁判所は、法定刑の幅の中から事案の性質に応じて、宣告刑を決めること
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- (1)加害者の法的な責任
- (2)刑事罰について-近時、法改正がなされている分野
- ア 通称「自動車運転死傷行為処罰法」-従前よりも厳罰化を意図
- イ 自動車運転死傷行為処罰法の条文の定められ方
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- (1)定義規定(第1条)
- ア 1項-法律の適用対象となる「自動車」の範囲-バイク、原付バイクを含む
- イ 2項-無免許運転の定義
- (2)危険運転致死傷罪(第2条)-故意犯であるため重く処罰されている
- ア 条文の定め方
- イ ポイント-危険運転致死傷罪に該当する場合は、故意犯であるため厳罰
- ウ 従前の法律と異なる点-通行禁止道路の危険走行を重く処罰できるようにした
- ⅰ 実は、六号以外(一号から五号)の内容は従前にも定めがあった
- ⅱ 追加された点-六号で処罰の隙き間を埋めた
- (3)準危険運転致死傷罪-新たな犯罪類型(第3条)
- ア 1項:アルコール・薬物の影響による危険運転
- ⅰ 条文の内容
- ⅱ 新たな犯罪類型を第3条1項で設けたポイント
- イ 2項:一定の病気(てんかんなど)の影響による危険運転
- (4)過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱(第4条)
- ア 新設された犯罪類型:発覚を免れるための行為を処罰
- イ 第4条の意図:
- (5)過失運転致死傷(第5条):過失犯、改正前の刑法211条2項
- ア 条文の定め
- イ 過失犯という本質から故意犯に比して軽い法定刑になっていること
- (6)無免許運転による加重(第6条)
- ア 第6条が定める内容
- イ 第6条1項-無免許運転による危険運転致傷罪の加重
- ⅰ 1項による加重の結果
- ⅱ 1項の条文
- ウ 第6条2項-無免許による準危険運転致死傷罪の加重
- ⅰ 2項による加重の結果
- ⅱ 2項の条文
- エ 第6条3項-アルコール等影響発覚免脱罪の加重
- ⅰ 3項による加重の結果
- ⅱ 3項の条文
- オ 第6条4項-過失運転致死傷罪の加重
- ⅰ 4項による加重の結果
- ⅱ 4項の条文
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- (1)平成13年以前-業務上過失致死傷罪のみ-余りに軽すぎた
- (2)平成13年改正-故意犯の処罰類型「危険運転致死傷罪」の新設
- (3)平成16年改正-「危険運転致死傷罪」の懲役刑の上限引き上げ
- (4)平成19年改正-自動車運転致死傷罪の新設(過失犯の処罰も重く改正)
- (5)更なる処罰強化へ~「自動車運転死傷行為処罰法」の制定~平成26年5月20日施行
1 死傷事故加害者に宣告される刑のおおよその見立て
~はじめに~
死傷事故加害者に宣告される刑のおおよその見立てを解説する前に、「執行猶予」と「実刑判決」について説明します。
よくテレビなどで、懲役2年 執行猶予4年などといった単語を耳にされるかと思います。この「懲役」というのは、簡単にいうと「刑務所に入って罪を償え」という刑罰です。なので、当然のことながら刑務所に入らなければなりません。
しかし懲役に「執行猶予」が付加されると、「即座に刑務所に入る必要がなく、執行猶予の期間中(上記だと4年間)に罪を犯さなければ、懲役(上記だと2年間)は受けなくてよい」という扱いになるのです。
「実刑判決」というのは、「懲役刑で執行猶予がつかなかったもの」を意味します。
(1)負傷事故(交通)の加害者に宣告される刑の相場
被害者の方が怪我をされたという、「負傷」交通事故を起こした加害者に対して宣告される刑の相場は、おおよそ次のとおりです。
<危険運転致傷罪>執行猶予もあるが、やや実刑事案の方が多い。示談の有無等による。
<準危険運転致傷罪>危険運転致傷罪に近い運用になると予想される。
<過失運転致傷罪>罰金刑か執行猶予事案がほとんど。
(2)死亡事故(交通)の加害者に対する宣告される刑のみたて-だいたいの感覚
被害者の方が亡くなるという、「死亡」交通事故を起こした加害者に対して宣告される刑の相場は、おおよそ次のとおりです。
<危険運転致死罪>:ほぼ実刑
<準危険運転致死罪>:今後の運用として、ほぼ実刑になると予想される。
<過失運転致死罪>:全体として執行猶予事犯の方が多い。罰金刑で終わる例もある。
同種前科がある事例やひき逃げ事案などでは実刑もある。
例えば、ひき逃げ死亡事故(過失運転致死罪+道路交通法違反(道交法の救護義務違反))
→ほぼ実刑(懲役1年6か月程度~懲役5年程度)
(3)裁判所は、法定刑の幅の中から事案の性質に応じて、宣告刑を決めること
以上に説明したのは、実際に加害者に判決として言い渡される宣告刑について私が持つおおよその相場観です。正確なデータは毎年出版される「犯罪白書」という本等で法務省から発表されています。
「相場観」などという説明の仕方になるのは、交通事故の加害者に成立する犯罪には
①(昔と違って)様々な種類が設けられるようになってきていて、
②罪ごとに法律で決められた刑(法定刑)に種類や幅があり、
裁判所は、事案の性質に応じて、法定刑の幅の中から適切な刑を言い渡すという仕組みになっているからです。
人身事故を起こした加害者が負うそもそもの法的な責任
(1)加害者の法的な責任
人身事故を起こした加害者の法的な責任は、大きく分けると、
①被害者の損害をいかに賠償するかという「民事責任」
②社会の治安維持を目的として公安委員会と警察署による、運転免許の停止、取消しなどの処分に従わなければならないという「行政責任」
③法律で定められた犯罪に該当することから刑罰を受けなければならないという「刑事責任」 との3つに分けられます。
被害者と保険会社の担当者とのやりとりは、①の民事責任をどのように果たしていくかという話をしているのであって、②行政責任や③刑事責任とは全く異なる話をしているのです。
(2)刑事罰について-近時、法改正がなされている分野
ア 通称「自動車運転死傷行為処罰法」-従前よりも厳罰化を意図-
従前の交通事故加害者に対する刑罰制度は、運転行為の悪質さや被害の実態に照らし合わせると軽すぎるのではないか、という批判がありました。
飲酒運転や脱法ドラッグの影響や、持病の影響から事故を起こし、多くの命が損なわれた割に刑が軽いのではないか、というテレビ報道がなされたのは記憶に新しいところだと思います。
こうした世論を背景に平成26年5月20日より通称「自動車運転死傷行為処罰法」という法律が施行されました。
この法律は、従前の法体系では処罰の隙間があって、刑罰が軽すぎた事故類型でも従前よりも重く処罰できるようにするための法律です。
イ 自動車運転死傷行為処罰法の条文の定められ方
この法律の正式名称は、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」と言い、6つの条文からなる刑罰法規です。
刑罰法規ですから、定義規定(第1条)の他には、
「どのような行為によって、どのような結果を発生させた者は、~のような刑罰に処する」という形で条文(第2条から第6条まで)が並べられています。
以下では、1つ1つ検討していきます。
3 刑罰法規-自動車運転死傷行為処罰法の内容解説-
(1)定義規定(第1条)
ア 1項-法律の適用対象となる「自動車」の範囲-バイク、原付バイクを含む
四輪自動車はもちろんのこと、オートバイ、原動機付自転車(原付バイク)の運転による死傷行為もこの法律による処罰の対象に含まれる「自動車」に該当することを定めています。
イ 2項-無免許運転の定義
説明省略。
(2)危険運転致死傷罪(第2条)-故意犯であるため重く処罰されている
ア 条文の定め方
次(の一から六)に掲げる(危険運転)行為によって
■人を負傷させた場合→1か月以上15年以下の懲役刑
■人を死亡させた場合→1年以上20年以下の懲役刑
に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を
走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、
その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を
生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の
危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
六 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で
自動車を運転する行為
(通行禁止道路とは、道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)
イ ポイント-危険運転致死傷罪に該当する場合は、故意犯であるため厳罰
危険運転致死傷罪(第2条)は、「故意犯」であるという点が「過失犯」である過失運転致死傷罪(第5条)と決定的に異なっています。
故意犯というのは、罪を犯す意思、つまり犯罪となる事実そのもの(例えば、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥っていること等)を認識しながら、ことさらに行為に及び、(人を死傷させた)被害結果を発生させた場合を言います。
一般に、故意犯は、自分の行動が犯罪につながることを認識しながら、あえてその行為に及んでいる点が、不注意によって人を結果を生じさせた過失犯よりも重く処罰しています。
危険運転致死傷罪(第2条)は、故意犯であるため、過失運転致死傷罪(第5条)よりも重い刑罰が定められているのです。
ウ 従前の法律と異なる点-通行禁止道路の危険走行を重く処罰できるようにした
ⅰ 実は、六号以外(一号から五号)の内容は従前にも定めがあった
自動車運転死傷行為処罰法は、新たに施行された新法ではあるものの、実は、危険運転致死傷罪(第2条)の定める内容は、六号を除いて、改正前の刑法第208条の2という法文で定められていました。
ⅱ 追加された点-六号で処罰の隙き間を埋めた
従前の法律体系ですと、通行禁止道路を猛スピードで運転した結果、人身事故を起こした場合等であっても、法定刑が危険運転致死傷罪の半分以下である自動車運転過失致死傷罪(旧刑法第211条2項)でしか処罰できないという処罰の隙間がありました。懲役7年以下の刑しか科せられなかったのです。
いくらなんでも「通行禁止道路」を「重大な交通の危険を生じさせる速度で」自動車を運転して死傷事故を起こした場合、15年、20年といった重い処罰を可能にする刑罰制度にした方が妥当だろうという価値判断の下、六号が新設されたのです。
(3)準危険運転致死傷罪-新たな犯罪類型(第3条)
ア 1項:アルコール・薬物の影響による危険運転
ⅰ 条文の内容
アルコール又は薬物の影響により、
その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、
→人を負傷させた者は1か月以上12年以下の懲役に処し、
→人を死亡させた者は1か月以上15年以下の懲役に処する。
ⅱ 新たな犯罪類型を第3条1項で設けたポイント
従前の刑法では、アルコール又は薬物の影響を受けて(酒気帯び程度)運転をして事故を起こしたとしても自動車を走行開始時点で「正常な運転が困難な状態」(酒酔い程度)に至っていたことを立証できないと危険運転致死傷罪で重く処罰出来ませんでした。
この場合、危険運転致死傷罪と比較して法定刑が半分以下の7年を上限とする自動車運転過失致死傷罪でしか処罰できなかったのです。つまり処罰の隙間があったのです。
自動車運転致死傷処罰法では、この隙間を埋めるべく第3条を新設して、
運転開始時には危険運転致死傷罪(第2条1項)の条件(正常な運転が困難な状態に至っていたこと)を満たさない場合であっても、自動車を運転し始めた時点で既に「(酒気帯びなどで)正常な運転に支障が生じるおそれ」さえあれば、運転を始めた後になって「正常な運転が困難な状態に陥り」、死傷事故を起こした場合も危険運転致死傷罪に準じて重く処罰できるようにしたのです。
(4)過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱(第4条)
ア 新設された犯罪類型:発覚を免れるための行為を処罰
アルコールや薬物の影響で正常な運転が出来ないおそれがあるのに、自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた者が、アルコールや薬物の影響の発覚を免れる目的で
■更にアルコールや薬物を摂取する行為 や
■その場を離れて身体に残るアルコールや薬物の濃度を減少させる行為
をした者は、1か月以上12年以下の懲役に処する。
イ 第4条の意図:
アルコールや薬物の影響で正常な運転が出来ないおそれがあるのに(実際に正常な運転が困難な状態に陥って事故を起こした場合は第3条に該当)、自動車を運転し、人を死傷させたに過ぎない場合、過失運転致死傷罪(第5条)が成立するに過ぎず7年以下の懲役刑が科せられるに過ぎません。
しかし、飲酒等の発覚を免れようとして逃げたり、さらに飲酒したりした場合、それらの行為は悪質なものだとして過失運転致傷罪よりも重く処罰できるようにしたのです。
(5)過失運転致死傷(第5条):過失犯、改正前の刑法211条2項
ア 条文の定め
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、
→7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
イ 過失犯という本質から故意犯に比して軽い法定刑になっていること
過失運転致死傷罪は、故意犯ではなく過失犯であるため、故意犯である危険運転致死傷罪に比して法定刑が軽く定められているばかりか、情状によっては刑の免除の可能性すら認められています。
この条文は、過失犯とはいえ犯罪を処罰しなければならないという要請と自動車の運転という社会的に有用な行動に対して過度な抑制とならないようにすることという社会的メリットとのバランスをとっています。
すなわち、自動車を運転した結果、不注意で人身事故を起こした場合に懲役15年、20年という処罰が待っているという法律であれば、車の運転自体が過度に控えられてしまい社会の活動が抑制されてしまうという価値判断で7年以下~という法定刑が定められているのです。
この条文自体は、改正前の刑法211条2項の自動車運転過失致死傷罪と同じ内容が定められています。
(6)無免許運転による加重(第6条)
ア 第6条が定める内容
第6条は、危険運転致傷罪(第2条)、準危険運転致死傷罪(第3条)、アルコール等影響発覚免脱罪(第4条)、過失運転致死傷罪(第5条)、の犯人が、無免許であった場合、刑罰をもっと重くする(加重する)という条文になっています。
イ 第6条1項-無免許運転による危険運転致傷罪の加重
ⅰ 1項による加重の結果
■無免許+危険運転致傷罪→懲役6か月以上20年以下へ加重
※危険運転致傷罪の法定刑=懲役1か月以上15年以下
※危険運転致死罪の法定刑=懲役1年以上20年以下(第2条の通り)
ⅱ 1項の条文
第二条(第三号を除く)の罪を犯した者(人を負傷させた者に限る。)が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、六月以上の有期懲役に処する。
ウ 第6条2項-無免許による準危険運転致死傷罪の加重
ⅰ 2項による加重の結果
■無免許+準危険運転(アルコール,薬物)致傷→懲役1か月以上15年以下へ加重
※準危険運転致傷罪の法定刑=懲役1か月以上12年以下
■無免許+準危険運転致死→懲役6か月以上20年以下へ加重
※準危険運転致死罪の法定刑=懲役1か月以上15年以下
ⅱ 2項の条文
第三条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は六月以上の有期懲役に処する。
エ 第6条3項-アルコール等影響発覚免脱罪の加重
ⅰ 3項による加重の結果
■無免許+アルコール等影響発覚免脱罪→懲役懲役1か月以上15年以下
※アルコール等影響発覚免脱罪の法定刑=懲役1か月以上12年以下
ⅱ 3項の条文
第四条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、十五年以下の懲役に処する。
オ 第6条4項-過失運転致死傷罪の加重
ⅰ 4項による加重の結果
■無免許+過失運転致死傷罪→
→懲役1か月以上10年以下若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に加重
※過失運転致死傷罪の法定刑=
=懲役1か月以上7年以下若しくは禁錮又は100万円以下の罰金
ⅱ 4項の条文
前条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、十年以下の懲役に処する。
4 自動車運転による死傷事故は、厳罰化傾向にあって、法改正が続いていること
(1)平成13年以前-業務上過失致死傷罪のみ-余りに軽すぎた
平成13年以前は、死傷交通事故の加害者に対しては、道路交通法違反のほかには、業務上過失致死傷罪(旧刑法第211条1項)しか適用されず刑の上限も5年の懲役とされていて、どんなに悪質な交通事犯であっても重く処罰できない法体系になっていました。
■業務上過失致死傷罪(旧刑法211条1項)
「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。」
この時代は、例えば飲酒して酩酊状態になったうえで自動車の運転に及び、事故を起こして人が亡くなった事案でも、加害者をせいぜい5年の懲役刑でしか処罰できず、法改正を求める声が広がりました。
(2)平成13年改正-故意犯の処罰類型「危険運転致死傷罪」の新設
平成13年には、危険運転致死傷罪という故意犯の犯罪類型が新設されました。運転操作の誤りによる死傷結果自体は故意ではないにしても、運転に至るまでの一定の行為を認識していれば故意犯として懲役10年まで処罰する余地が出来たのです。
(3)平成16年改正-「危険運転致死傷罪」の懲役刑の上限引き上げ
危険運転致死傷罪が新設された後も、まだ刑の重さが不十分ではないか、という世論が広がり、危険運転致死傷罪の懲役刑の上限が10年から15年へと引き上げられることが国会で決まりました。
■危険運転致死傷罪(旧刑法208条の2)-故意犯 ※過失犯より罪責が重い。
同条第1項
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。」
同条第2項
「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。」
(4)平成19年改正-自動車運転致死傷罪の新設(過失犯の処罰も重く改正)
平成19年には、「自動車運転過失致死傷罪」(旧刑法第211条2項)という犯罪類型を新たに創設し、自動車の運転操作の誤りなどの過失によって人を死傷させた場合も、従前の「懲役5年以下」から「懲役7年以下」へとより重く処罰できる仕組みに改正がなされました。
■自動車運転過失致死傷罪(改正前の刑法211条2項)-過失犯
「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」
また、平成19年の改正では、「危険運転致死傷罪」の成立する対象に四輪自動車のみならず、バイクも含まれるような改正がなされました。
(5)更なる処罰強化へ~「自動車運転死傷行為処罰法」の制定~平成26年5月20日施行
飲酒運転や無免許運転などの悪質・危険な運転によって交通事故を起こした加害者に対する罰則強化の流れは現在も続いています。
平成25年11月20日、国会で、通称「自動車運転死傷行為処罰法」という法律が成立し、平成26年5月20日より施行され、従前の刑法211条2項や刑法208条の2は削除されました。
現在では、従前よりも交通犯罪の刑事司法による処理方法は多様化されるようになり、加害者をより重く処罰されるような法改正、司法の運用傾向が変わりつつあるのです。
以 上