4、加害者の処分(刑事上、行政上)はどうなっているのか。
(1)犯罪の成立
交通事故によって、被害者が傷害を負ったり、死亡してしまったりした場合、加害者には、刑事上、自動車運転過失致傷罪(或いは~致死罪)、危険運転致傷罪(或いは~致死罪)などの犯罪が成立します。
ア 犯罪捜査の開始
犯罪が発生しているのですから、まず、警察職員による捜査が始まります。
交通捜査係の警察官は、事故状況について聴取するため加害者を取調べたり、事故車両について写真撮影したり、道路の状況等を見分して書類に残したりします。後日、被疑者が「俺はやってない。」等と言い出したとしても、「証拠からすれば有罪」と言える程度に証拠を固めるのです。
交通事故の被害者も、事故状況と被害結果、加害者の処罰についてどの様な意見を持っているのか等について警察官から事情を聞かれる捜査の対象となります。
捜査段階において、被害者が考えて行動した方がよいことは、ⅰ実況見分調書の記載に立ち会うか否かとⅱ加害者の処罰についての意見をどう述べるかです。捜査が終了した時点で、事件の捜査記録一式は検察庁に送致されます(世に書類送検と呼ばれるものです)。
ⅰ 加害者は必ずしも逮捕されないのか・・・
加害者の身柄を拘束する逮捕という手続きがとられるか否かは、加害者の年齢や境遇、被害結果の重さや事故態様(ひき逃げか否か)など諸事情を総合考慮して判断されます。
刑事訴訟法199条1項は、犯人を逮捕出来る場合として、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」を要件としていますが、これに加えて、刑事訴訟法や規則の解釈上、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるなど「逮捕の必要性」も要件になると解釈されており、必ずしも事故の加害者が逮捕されるとは限らないのです。
ⅱ 某有名アナウンサーの場合・・・
被害者が亡くなる事故を起こしてしまった某有名アナウンサーは、「署までご同行頂けますか?」という任意の捜査に協力して事故状況について正直に話したのでしょう。事故車両も捜査機関に提供し証拠隠滅のおそれがなく、夫が身元保証人になるなどして逃亡のおそれもないとして、逮捕の必要性がないと判断されたため逮捕に至らなかったと思われます。
イ 検察官の取り調べと処分
そして、事件記録の送致を受けた検察庁において、さらに検察官が加害者を取調べるなどしたうえで、最終的な処分を決定します。
検察官は、警察の捜査が適正になされたか否かをチェックする機能を担いつつ、最終的には、①今回だけは勘弁するのか(不起訴処分、起訴を猶予する処分)
②加害者から罰金をとるのが妥当か否か、③懲役刑(交通刑務所に送る)を裁判所に選択してもらうか、について処分を決めるのです。
検察官が行う処分には、
①不起訴処分
②略式命令の請求
③公判請求
の3つがあります。
①不起訴処分
不起訴処分とは、加害者の過失が十分に立証できない場合や、過失の程度がごく軽微である、加害者の反省状況が十分であるなどの理由を考慮して、「今回は刑事事件として処罰する必要まではない」と検察庁が判断した場合に下される処分です。
この場合、加害者は、刑罰を受けることはなくなりますが、被害者がこの処分に納得がいかないということであれば、検察審査会に審査を申し立てるという制度があります。
②略式命令の請求
検察官が、事故の内容からみて、罰金刑が相当と判断し、加害者に異論がない場合、検察官は裁判所に対して略式命令の請求をすることが出来ます。この場合、裁判所は正式な裁判手続を省略して、書類の審査だけの簡単な手続で、加害者に対し、罰金刑を言い渡すことになります。
③公判請求
事件の内容からして、上の①、②の手続では済ませることが出来ないと判断したとき、検察官は、裁判所に公判請求といって裁判を求める処分をします。
この場合には、本格的な刑事裁判手続を経て、裁判所の判決という形で刑罰が言い渡されることになります。
(2)行政上の責任
交通事故を起こしてしまった場合、物損事故、人身事故ともに道路交通法によって運転者に違反点数が課せられ、違反点数が一定以上になると免許停止や免許取消などの行政上の処分を受けることになります。