Ⅱ-ⅰ 何をすべきか:基礎知識の補充ページ 賠償金の内訳、根本的な考え方~
被害者がなすべきポイントは、大きくわけて、後遺障害等級認定を受けること、裁判所の基準で計算した賠償金額を把握することです。
ここでは、賠償金の内訳について根本的な考え方を説明したうえで、財産的な損害と、精神的な損害の細目を説明していき、あわせて、死亡事故の場合の賠償、物損の処理についてご説明します。その後、後遺障害の等級認定について根本的なところを説明致します。
1、支払ってもらえる賠償金の内訳にはどの様なものがあるのか~考え方編~
(1)~法律の根本的な考え方について~
ア 法律は抽象的に書いてあるが、過去の裁判例の集積によってある程度ルール化
① 損害賠償請求の根拠となる法律の定め方について-小難しく書いてある-
交通事故の加害者は、民法709条等の法律の条文を根拠にして、被害者に対して、事故と相当因果関係がある『損害』を賠償する責任を負います(被害者からみれば、損害を賠償しろ、という権利を取得する)。
② なぜ、法律には小難しく書かれているのか-社会のシステムとして合理的だから
法律になんとなく小難しく書かれている理由は、民法という法律が、広く一般市民と一般市民との間の紛争を解決するための基準という役割を担った法律なので、広く汎用性のある基準として機能するためなのです。例えば、
ⅰ「夫と仲が良かった専業主婦の人が、事故が原因で不仲になった場合は~とする」
ⅱ「犬の散歩が好きな事業主が事故にあって犬の散歩に行けなくなった場合は~とする」など個別的なケースごとに解決方法をいちいち細かく法律で定めていくと、きりがなくなってしまい、ある程度は汎用性のあるルールを作った方が社会のシステムとしては合理的なのです。
だからこそ、民法709条などの条文は『損害』等と抽象的に小難しく書かれているのです。
③ 参考条文-意味がわかる必要はないです-
交通事故を原因とする損害賠償請求の根拠となる法律の規定 (意味がわかる必要はないです。)
民法第709条(不法行為による損害賠償)
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害(財産的損害の賠償の根拠)を賠償する責任を負う。」
民法第710条(財産以外の損害の賠償)
「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害(慰謝料請求の根拠)に対しても、その賠償をしなければならない。」
自賠法3条(自動車損害賠償責任)
「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、(立証責任を転換している規定)・・・・」
④ 公平な解決を図るため、交通事故によって発生する「損害」(民法709条、同710条)は、過去の裁判例等である程度ルール化されている
被害者の心情としては、あれもこれも損害だと言いたくなるものではあります。しかし、何をもって「損害」とするかについて、何らかのルールを設けないと、例えば
ⅰ「よく走るドーベルマンとの散歩が好きな事業主の慰謝料は・・・年老いた柴犬なら・・」
ⅱ「夫婦仲が良かった様にはみえたが、本当は事故前から仮面夫婦だった場合は・・・」と事件ごとの特殊性によって判断がまちまちとなり、かえって公平な解決が出来なくなってしまいかねません。
これでは、社会のルールとしての法律が意味のないものとなってしまいます。
そこで、交通事故によって発生した「損害」を解釈するにあたっては、ある程度の抽象度を持った損害の費目(≒損害のまとまり)(ex:入院雑費とは、休業損害とは、逸失利益とは・・・)ごとに分類したうえ、分類された損害費目ごとに過去の裁判例の集積によって、ある程度のルール、だいたいの相場が出来上がっているのです。
(もちろん、画像所見の乏しい器質性の高次脳機能障害事案など、科学・医療技術の発展をみつめながら、これからの弁護士事務所が頑張って裁判例を集積していくことで基準を明確化していかなければならない分野も沢山有りますが・・・)
イ 被害者は、だいたいの考え方を理解しておいた方が自分で判断が出来るようになるが、「弁護士事務所に全てお任せします。」でも問題はない。
被害者の方は、分類の方法を正確に把握する必要はありません。しかし、保険会社との交渉の円滑化や、弁護士事務所のいう事をより正確に把握するためには、大まかな知識を得ておいた方が望ましいです。
ご自身の頭で考えて、納得したうえでの事件解決に臨むことで、「損害保険会社」や「自分が頼んだ弁護士事務所」の言いなりになってしまう危険を回避できるのです。
もちろん、弁護士事務所に依頼されるのであれば、「全部、お任せします。」でも問題ないハズです。難しいことや煩わしいことから被害者を解放する、という役割も弁護士事務所は担っているのですから・・・。
ウ ⅰ「財産的な損害」と ⅱ「精神的な損害」という大きな分類
まず、「損害」を大きく分類すると、ⅰ財産的な損害とⅱ精神的な損害とに分けることが出来ます。
例えば、「膝の関節がぐらぐらするようになったので、補装具を購入して膝を固定しなければならなくなった」という場合の補装具の購入費用は、損害のうちi財産的な損害として分けられます。
また、「元気だった頃には毎週末に海や山へ行っていたのに、後遺障害が残ってしまったので、身体の痛みが残って行けなくなってしまった」という悔しい思いは、損害のうち、ii精神的な損害にわけられ、精神的な損害のうち後遺障害慰謝料として賠償をしましょう、という振り分け方をします。
エ 財産的な損害のうち、「積極損害」「消極損害」の分類について
①財産的な損害のなかには、本質的に算定が難しいものがある
財産的な損害は、被害者の心情の痛みではなく、被害者の財産が減少したことを損害として賠償の対象とするものです。
財産の減少には、車両が壊れた等、現実に発生したものなど分かり易いものもあります。他方で、本来、事故にあわなければ「将来、事業が順調に伸びて稼げていたのは確実だったハズ」というように「将来~かもしれない。」をいくらと算定するのかが難しいものもあります。
②積極損害と消極損害の分類
財産的損害には、算定が難しいものを「どういう風に算定しようか」について、考え方をルール化しておかないと不公平な結果となる損害費目があるため、財産的損害は、積極損害(≒比較的分かり易い現実損害)と消極損害(≒将来の損害など仮定の話が混ざるので、算定方法についてルール化が必要になってくる損害)とに分類して損害費目一つずつ損害額について検討していくのが一般的です。
ⅰ 積極損害
積極損害とは、治療費の様に、事故が発生したことにより被害者が直接に費用の支出を余儀なくされたり、現実に被害者の財産が減少したりしたことによる損害を言います。積極損害の詳細は、次頁以降に記載します。
ⅱ 消極損害
消極損害とは、交通事故に遭わなければ得られたであろうと推定できる利益・収入の喪失を言い、休業損害・営業損害(症状固定日までに休業したことにより発生した損失)、逸失利益(症状固定後、後遺障害が残ったことにより発生した損失)が含まれます。消極損害の詳細は、次頁以降に記載します。