- Ⅳ-⑧ 耳の障害
- 1 耳の後遺障害とはどの様なものか
- (1)「聴力障害」「欠損障害」の分類
- (2)「耳漏」「耳鳴り」への準用
- 2 聴力障害について
- (1)障害の評価対象となる聴力について
- (2)検査方法
- ⅰ 純音聴力検査-「ピー」という音を聞き取る検査
- ⅱ 語音聴力検査-「あ」「も」などの音を聞き分ける検査
- (3)聴力障害についての分類
- (4)自賠法施行令別表2~聴力障害についての認定基準~
- 3 耳殻(介)の欠損障害について
- (1)自賠法施行令別表2~耳殻(介)の欠損障害についての認定基準~
- (2)「耳殻(介)の大部分を欠損したもの」とは
- (3)耳漏(じろう)
- (4)耳鳴り
- (5)平衡機能障害
1 耳の後遺障害とはどの様なものか
(1)「聴力障害」「欠損障害」の分類
耳の障害としては、自賠法施行令別表2では、
①「聴力障害」 と
②「耳介の欠損障害」 が定められています。
(2)「耳漏」「耳鳴り」への準用
また、自賠法施行令別表第2備考6に「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする」と定められています。
この規定を受けて、
③「耳漏」
④「耳鳴り」
については、その障害の程度に応じて相当な等級が認定されるという運用がなされています。
2 聴力障害について
(1)障害の評価対象となる聴力について
耳の障害のうち、聴力障害は、耳の聴力、音を聴く力についての障害です。
聴力障害として評価対象となる聴力は、
ⅰ 純音聴力(≒音を聞き取る力)
ⅱ 語音聴力(≒言葉を聞き分ける力)
の2つに分けられます。
(2)検査方法
ⅰ 純音聴力検査-「ピー」という音を聞き取る検査
- ア どんな検査か
- →オージオメーターという検査機器を用いて、ヘッドホンに流れる音「ピーピーピー、プープープー」を聞き取る検査がなされます
- イ 判定基準
- 純音聴力検査では、音の強さを表すdB(デジベル)という単位で聴力レベルを測定され、数字が高ければ高いほど、聴力は悪いと判断されます。
- 参考までに指摘しますと、世界保健機関(WHO)による分類によれば、
- 『軽度難聴:26~40dB』
- 『準重度難聴:56~70dB』(≒1mぐらい離れると聞くのが厳しい)
- 『重度難聴:71~90dB』 (≒40cm以上離れると話が聞こえない)
- 『最重度難聴:91dB以上』 (聴力を失っているレベル)
- と区分されています。
- 後遺障害の等級認定では、区分となる数値はWHOの数値とは異なります。
- 純音聴力検査では、音の強さを表すdB(デジベル)という単位で聴力レベルを測定され、数字が高ければ高いほど、聴力は悪いと判断されます。
ⅱ 語音聴力検査-「あ」「も」などの音を聞き分ける検査
- ア どんな検査か
- →スピーチオージオメーターという検査機器を用いて、ヘッドホンに流れる音「あ」「も」「き」「に」などの検査音を、音の大きさを変えながら音を聞き分けて正答率を調べる検査が左右の各耳でなされます。
- イ どこに着目すべきか
- 語音聴力検査は、本来、難聴の原因となっている障害部位を推定するという点に大きな意義があり、どの位の声の大きさならば正しく聞き取れるのかを測定することが出来る検査です。
後遺障害の程度を把握する尺度としては、最高明瞭度(音節明瞭度の測定結果として得られた最も大きい値、maximum discrimination score)が用いられています。
- 語音聴力検査は、本来、難聴の原因となっている障害部位を推定するという点に大きな意義があり、どの位の声の大きさならば正しく聞き取れるのかを測定することが出来る検査です。
(3)聴力障害についての分類
聴力障害についての後遺障害を大きく分類すると、
ア「両耳の聴力に関する障害」(4級3号~11級5号の6段階)
イ「片耳の聴力に関する障害」(9級9号~14級3号の4段階)
に分類されます。
また、聴力障害についての後遺障害は、
① 1耳と他耳との聴力レベルの組み合わせによる分類と
② 両耳の聴力レベルと最高明瞭度との組み合わせによる分類と
③ 1耳の聴力レベルと最高明瞭度との組み合わせによる分類
に分類でき、障害の程度によって4級から14級までに序列が設けられています。
(4)自賠法施行令別表2~聴力障害についての認定基準~
【1耳と他耳との聴力レベルの組合せによる認定基準一覧表】
【両耳の聴力レベルと最高明瞭度との組合せによる認定基準一覧表】
3 耳介の欠損障害について
(1)自賠法施行令別表2~耳介の欠損障害についての認定基準~
(2)「耳介の大部分を欠損したもの」とは
- ア どの部分の欠損か
- 「1耳の耳殻:ジカク(耳介、じかい)」とは、外耳のうち、外に張り出て飛び出している部分のことをいいます。
- イ どの程度の欠損か
- 「大部分を欠損した」とは、耳殻の軟骨部の2分の1以上を欠損したものをいいます。
- ウ 注意点
- 両耳の大部分を欠損している場合、1耳ごとに等級を定め、これを併合して後遺障害11級と評価します。
- エ 醜状障害との関係
- 「耳殻の大部分を欠損したもの」は、耳の欠損と同時に「醜状障害」としても捉えられ、7級12号か9級16号の認定が想定されます。
- オ 大部分欠損に達しない場合
- 欠損が耳殻の2分の1までは達していない場合であっても、「外貌の単なる醜状」といえれば醜状障害として12級14号の認定を受けます。
- →醜状損害について
(3)耳漏(じろう)
- ア 耳漏とはどの様なものか
- 耳漏とは、鼓膜が破れたり、鼓膜に穴が開いたりして(外傷性穿孔)、耳から分泌物が出ることです。
- 聴力障害そのものとしては障害等級に該当しない程度のものであっても、30dB以上の難聴で、かつ、「耳漏」が後遺障害等級として評価するのが相当な場合、自賠法施行令別表2備考6を根拠に、後遺障害等級として評価される場合があるのです。
- イ 「耳漏」が後遺障害として評価されるための認定基準
- 「耳漏」は、オージオメーター検査結果を後遺障害診断書に添付したうえ、30dB以上の難聴で、耳漏があることを立証する必要があります。
(4)耳鳴り
- ア 耳鳴りとはどの様なものか
- 耳鳴りとは、実際には音がしていないのにもかかわらず、何かが聞こえるように感じる現象をいいます。
- 聴力障害そのものとしては障害等級に該当しない程度のものであっても、30dB以上の難聴で、かつ、「耳鳴り」が後遺障害等級として評価するのが相当な場合、耳漏と同様に後遺障害等級として評価される場合があるのです。
- イ 「耳鳴り」が後遺障害として評価されるための認定基準
ウ 検査方法
① | ピッチ・マッチ検査とは、上記オージオメータという機器を用いて、 「聞こえている耳鳴りがどの高さの音か」を調べる検査です。 |
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② | ラウドネス・バランス検査とは、ピッチマッチ検査で得られた 「聞こえている耳鳴りの周波数」を用いて、その周波数を徐々に上げ下げし ながら、耳鳴りと同じ大きさと感じる音量を探します。 検査結果の程度によって、12級、14球、非該当と振り分けられます。 |
(5)平衡機能障害
- ア 内耳の平衡機能
- 平衡機能障害は、姿勢を調節する機能の障害です。
- 内耳には、人の身体の平衡機能をつかさどる、三半規管や、耳石の前庭系があります。
- ここに障害を負うと、眩暈(めまい)や平衡機能障害(バランスを崩す)をおこすことがあります。
- イ 神経系統の機能の障害についての認定基準を用いる
- 内耳の障害による眩暈や平衡機能障害は、神経系統の機能の障害の一種として評価できるので、下記に示す「神経系統の機能の障害」全般について定められている認定基準にしたがって、後遺障害の等級が認定されます。
【神経系統の機能の障害の認定基準】