Ⅱ-②-ⅲ 精神的損害-慰謝料-
3 精神的損害-慰謝料-
「損害」(民709条)-財産的損害-積極損害
「損害」(民710条)-精神的損害-傷害慰謝料
-後遺障害慰謝料
(1)総説-慰謝料というものは、どのようなものなのか
(2)傷害慰謝料(入通院慰謝料)
(3)後遺障害慰謝料
(4)慰謝料の増額事由について
3 精神的損害-慰謝料-
(1)総説-慰謝料というものは、どのようなものなのか
ア 慰謝料というもの
被害者の本当の気持ちは、財産的な損害を補償されたとしても、「事故がなかったことにして欲しい。」「後遺障害のない身体に戻して欲しい。」というものでしょう。
しかし、残念ながら、起こってしまった事故を発生しなかったことにすることは出来ないのが現実です。
被害者の方が事故によって被った精神的苦痛や、後遺障害が残ってしまったことで被り続ける精神的苦痛を、事故がなかった時の気持ちとの差として、やむなく金銭で評価するのが慰謝料と捉えられます。
イ 保険会社の提案内容をよく検討して下さい!
保険会社は、「慰謝料」と一括りにして示談の提案をすることがありますが、実は、精神的苦痛は、ケガをしたことによってのみならず、後遺障害が残ったことによっても発生するものとに分類されています。
ですから、精神的苦痛に対する金銭評価は、事故によってケガをして入通院したことに対する「①傷害慰謝料(入通院慰謝料)」として評価するとともに、後遺障害が残存したことに対する「②後遺障害慰謝料」の2つに分類されるというのが賠償の世界での確立した運用なのです。
ウ 慰謝料について裁判所の運用
精神的苦痛には、事故のせいで、「毎年、弘前桜祭りに参加していたのに出来なくなった。」「本来、カノジョと行くはずだった映画を観に行けなくなった。」「この3年間のうちに子供を作ろうと計画していたのに難しくなった。」「毎日、犬と走って散歩に行くのが楽しみだったのに出来なくなった。」など、多種多様なものがあって、一つ一つについて公平を保ちながら金額として評価していくのは困難です。
公平と基準としての明確さを保つ意味で、裁判所の考え方としては、交通事故の被害者の財産以外の「損害」(民法710条)の解釈にあたっては、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料との2つに分類したうえ、判断がバラバラにならないようにある程度の相場が設けられているのです。
(2) 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
傷害慰謝料とは、交通事故によって負ったケガの治療のために、入院・通院したことによって発生した精神的苦痛を慰謝するための損害費目です。
傷害慰謝料の額については、基準としての明確性を重視して、入院日数と通院日数を一応の目安として算定するように運用が固まっていて、下記2つの表から算出されます。
<①選択する表はどちらか>
傷害慰謝料の算定にあたっては、骨折や可動域制限など重傷事案では、原則として、別表1という表が用いられるのですが、むち打ち症で他覚症状がない場合は別表2という表を用いて算出されています。
<②表にあてはめると傷害慰謝料はいくらか>
表は、横軸として入院日数が記載されていて、縦軸としては通院日数が記載されています。
例えば、右鎖骨遠位端骨折により入院1か月間、通院12か月間を要した場合、
①むち打ちで他覚症状がない場合ではないので、別表1を選択します。
そして、入院1か月間、通院機関12か月間に対応するのは「183」とあるので、傷害慰謝料は、183万円が一応の目安となるというのが裁判所の基準です。
もちろん、この表は絶対的な基準ではないため、傷害の部位や程度によって、表に記載された金額を増額するなどの調整が行われる場合もあります。
<③注意事項>
ギプス装着期間は、実通院日数に含める。
<④よく紛争になる点>
入院日数の妥当性。医師を味方にしておいた方が良い。
真実の症状固定日をいつと評価するのが適切なのか。
別表1
別表2
(3) 後遺障害慰謝料
交通事故によって負った怪我が症状固定に至ったとしても、完全には治癒することのない痛みや神経症状、骨の変形癒合、関節の可動域制限、精神障害などの後遺症が残存した場合、日々、精神的な苦痛とともに過ごしていかなければなりません。
身体に残存する後遺症のうち、身体の不完全性が後遺障害として評価された場合、ケガを負ったことに対する慰謝料とは別の精神的苦痛を負い続けるため、この苦痛を後遺障害慰謝料という損害費目を設けて金銭的評価を加えるという運用がなされているのです。
後遺障害が残存すると、生活の中で様々な苦痛を被るのが通常であって個別に評価していくのは不可能に近いため、裁判所としては、「後遺障害等級~級なら☆●△万円」という一応の目安となる基準を設けています。
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害の等級によって、以下の表を一応の目安として算定されているのです。
※自賠責14級に至らない後遺障害があった場合、障害に応じた後遺障害慰謝料が認められる場合があります。
例:ファッションモデルの女性が、後遺障害等14級に至らない醜状障害を負った場合、職業柄を考慮し、後遺障害を認めるなど
(4)慰謝料の増額事由について
裁判所の基準は、一応の目安に過ぎないと説明しました。加害者に故意もしくは重過失または著しく不誠実な態度等がある場合、慰謝料の増額が検討されます。
例えば、歯の欠損や醜状障害など、後遺障害によって実際に減収が発生しなかったとして、逸失利益を否定されてしまうなど、他の損害費目で金額として正面から算定できなかったものがあった場合、慰謝料に若干色をつけるという形で処理をすることもあります(学問の世界では、慰謝料は財産損害の補充的性格を持つ、と言われるのです)。