Ⅰ 初めての法律相談:基礎知識の補充ページ
補充ページでは、法律相談に行くことを考え始めた方を念頭において、以下の事項についてご説明致します。
(3)病院での治療につき確認しておくべきこと
ア 出来れば医療機関とは喧嘩しない
イ 基本的な考え方、注意事項、よくある問題点
ウ 交通事故で健康保険は使えるのか
エ 健康保険を使うためには
■ 雑談
(3)病院での治療につき確認しておくべきこと
ア 出来れば医療機関とは喧嘩しない
病院の治療では、場合によってはご自身が思っていた程にはお医者さんや病院は親切ではないこともあるかもしれません。
それでも、病院や医師は、適切な賠償を受けるという観点からすれば、「出来れば味方してもらいたい相手」であることを忘れないで下さい。
後日、症状固定の時期についての判断をしてもらったり、後遺障害の認定を受けるのに必要な検査を実施してもらったり、出費したもので、医師の指示が必要とされるものの相当性につき意見書を書いてもらったりして協力を仰ぐ必要があるのに、「患者と医師が交戦状態」ということが、実は結構あるのが現実です。
イ 基本的な考え方、注意事項、よくある問題点
基本的な考え方として、病院までの交通費や薬代など、事故が起こったことによって自分自身がお金を払った出費については、
①領収書など何らかの形で証拠として手元に残しておく。
②出来れば手書きのメモよりはレシートなど出費の裏付けについて客観性のある証拠を残しておく。
③全ての出費について証拠を残すことが難しくても、最低限メモなどの記録を残しておく。
ということを押さえておくのが好ましいです。
■注意しておくべきこと、よくある問題点・・・
病院での治療費は加害者の任意保険会社から支払われ、診療報酬明細書などの証拠が残るのが通常ですが、後日、賠償の範囲を巡ってよく問題となる点で注意しておくべきことは、以下の通りです。
① 症状固定日につき争いがある場合に発生した治療費
症状固定日の時期について保険会社と争いがあるのに保険会社が一方的に治療費の支払いを打ち切ってきたため、やむなく自分自身で立て替えた治療費が発生した場合、領収書を保管しておくこと
② 鍼灸治療費・プール歩行費など
損害として賠償を受けるには「医師の指示」が必要とされている費用については、医師の指示を記録として残しておくこと
③ 薬代・湿布代
自費で支払った薬代・湿布代などについて領収書を残しておくこと
④ 親族による付き添い費用など
入院した被害者に対する親族の付添費用について、付き添いが不可欠だったことの立証資料「医師による記録など」を残しておくこと
⑤ 通院交通費
払う・払わないで紛争になることは少ないが、上手に証拠を残しておいて適切な賠償を受けるために、医療機関への通院に要した交通費について上手く記録を残しておくこと
※乗り換え案内サービス等を印刷して記録を残しておく
例えば、電車賃については、yah●●!とかj●●ダンといったインターネット上の無料で使える乗換案内サービスで経路を印刷しておいて、印刷した紙に通院した日付をメモしていき、クリアファイル等に入れて保管しておくと上手く管理できます。
ケガをされたご子息のために、病院への付き添いを随分長い間なさっていたお母さんが行っていた方法で、「なるほど。」と思いました。
※ 自家用車を使った日については、NA●●TIMEさん等のサービスを使うなどして「自宅から医療機関への距離」について印刷しておいて、その印刷した紙のうえに、何月何日にその経路を使って通院したかを残しておくと、後日、保険会社への請求漏れを避けることが出来ると思います。
ウ 交通事故で健康保険は使えるのか
ⅰ 治療費の支払い~ごくごく通常の処理
交通事故を原因とする被害者のケガの治療費は、原則として、加害者が全額負担しなくてはなりません。
交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、保険会社から治療費の支払を受けることができ、被害者は1円の支払いも負担しないというのが通常の事故後の処理だと言えます。
ⅱ 問題の所在-不慮の事故に遭ったうえ、その中でも更に不運で悲劇的なケース
ところが、加害者が任意保険に加入しておらず、被害者の治療費を負担できる経済状況ではない場合、自賠責保険から支払われる治療費には限度額がありますから、被害者が治療費を一部立替え、泣き寝入りすることになりかねません。
病院によっては、健康保険を使う場合と自由診療の場合とでは、治療費を計算するための医療点数の単価が異なることから「交通事故では健康保険を使えません。」などと、言葉こそ明確ながら、意味不明な本音をむきだしで言ってくることがあります。
ⅲ 健康保険という制度の本質
しかし、健康保険という制度の本質は、「労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。(健康保険法第1条に定められた法の目的)」制度ですから、「交通事故で健康保険を使えないはずがない」のです。
例えば、集中治療室での治療には、自由診療ではかなり高額な負担を余儀なくされてしまいます。健康保険を使って治療費を抑えるべきです。
ちなみに、業務中、通勤途上の交通事故の場合(労災、通勤災害)は、健康保険ではなく、労災保険(労働者災害補償保険)を使うべきと定められています。
エ 健康保険を使うためには →「第三者行為による傷病届」が必要
ⅰ 健康保険で3割立て替え
交通事故や傷害事件などの第三者の行為によって受けた傷病の医療費は、原則として加害者が負担することになりますが、加害者に支払能力がなかったり、賠償問題に時間がかかったりするような場合には、健康保険を使って治療費の30%を負担することで診療・治療を受けることができることはすでに説明しました。
ⅱ 第三者行為による傷病届
ただし、交通事故による傷病の治療に健康保険を使うには、勤務先の健康保険組合又は管轄の協会けんぽ(国民健康保険証を使った診療・治療を受けるためには、お住まいの役所の国民健康保険を担当する部署)に対する届出が必要となります。
この届出が、第三者行為による傷病届と呼ばれるものです。
届出があることで、後日、健康保険組合等は、立て替えた治療費の70%相当額を事故の加害者に請求することが出来るのです。
届出には、届出書のほかに、念書・加害者の同意書(加害者からの同意書の取り付けにストレスを感じるようならば弁護士を介入させる)、交通事故証明書などの添付書類が必要となりますので、詳細を担当者に問い合わせて必要書類を確認しましょう。
■ 雑談
ちなみに、私は、酔っぱらいに頭を殴られ、指を折られて全治3か月のケガをした際、聞かれる前から第三者行為による傷病届を出しました。
病院の窓口でMRI検査や治療費の30%を立替えておいて、後日、加害者本人から取り立てました。加害者本人は、その費用を支払うのは想定している様でしたが(なんせ弁護士に手を出したんですから)、その後、健康保険組合が病院に立て替え払いした70%相当額についても加害者は請求を受けるのです。
結構、高くついたハズです。