1、被害者請求による後遺障害等級認定の申請手続き解説~
(1-1)後遺障害等級認定の申請とは何か
ケガがこれ以上良くも悪くもならない状態(症状固定)に至った後にも、交通事故により負傷した部位(肩、首、腰など)に痛み、神経症状、機能障害が残ってしまった場合、その痛み等の後遺症を自賠法施行令に定められた後遺障害として評価してもらうための申請手続きのことです。
障害の程度によって1級から14級までに分かれた等級という序列付けが進められ、一般にはより高い等級が認定されるほどトータルの賠償額が高くなってきます。
自賠法施行令の第2条は、後遺障害を「傷害が治ったとき身体に存する障害」と規定し、関係する法令が後遺障害の等級ごとに支払われる自賠責保険金の金額について定めています。
(1-2)後遺障害が認定された場合、どの様に賠償金が大きくなるのか
ア 「後遺障害慰謝料」の支払いがなされる
~保険会社の提案-損害費目のうち「慰謝料」の項目をチェックすべき~ ~「慰謝料」は、①入通院慰謝料と②後遺障害慰謝料の(本来、支払われる)2つの費目を分けて計上しているか?~
保険会社が提示してくる提案書には、入通院したことに対する慰謝料なのか、後遺障害が残存したことに対する慰謝料なのかが区別されず、ただ「慰謝料」という名目で●●万円などと金額が算定されてくることがあります。
しかし、後遺障害が認定された場合、入通院慰謝料とは別の損害費目として、「後遺障害慰謝料」の支払いを受けることが出来ます。
後遺障害慰謝料の金額は、東京地方裁判所の基準ではだいたい定額化していて、下記表が一応の基準とされています。
■後遺障害慰謝料一覧表
イ 逸失利益の支払いがなされる
~保険会社提示の逸失利益は、何年、何%の計算なのかをチェックすべき~
~5年、5%で計算されるハズの事案(14級)が2年3%で計算されていないか?~
後遺障害が残ってしまった場合、多くの方が症状固定日以後も事故前と同じようには働けず、減収を余儀なくされてしまいます。症状固定日以後の将来分の年収が減少してしまう分を補償するための名目が「逸失利益」という損害費目です。
逸失利益の計算は、
基礎年収(事故前年の年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間
という計算式で求められます。
計算式のうち、労働能力喪失率(%)と労働能力喪失期間(年)については、裁判所の算定方式によると後遺障害の等級によってある程度の基準が決まっているのですが、保険会社が提示してくる%と年数は裁判所の基準よりも低いのが通常です。
■労働能力喪失率について裁判所のおおよその基準
第1級 | 100% | 第2級 | 100% |
---|---|---|---|
第3級 | 100% | 第4級 | 92% |
第5級 | 79% | 第6級 | 67% |
第7級 | 56% | 第8級 | 45% |
第9級 | 35% | 第10級 | 27% |
第11級 | 20% | 第12級 | 10% |
第13級 | 9% | 第14級 | 5% |
※労働能力喪失率:
労働能力の低下の程度を示す%、割合。事故前に比べると「どの程度、働きが悪くなってしまったか」を意味する%程度に捉えてください。裁判所では、「被害者の職業や年齢、性別、後遺症の部位や程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断する」とされています。
裁判で、労働能力喪失率を争う方はそれなりに多いですが、上記に示すおおよその基準通りに%を決められることが多いなという実感があります。
■労働能力喪失期間
症状固定日からカウントして、何年程度、労働能力を失ったと考えるか、という労働能力喪失期間についても裁判所の考え方と保険会社の算定方法とでズレが生じるところです。
労働能力喪失期間は、本質的には、後遺障害の具体的な症状、職種に応じて適宜判断するものなのですが、むち打ち症で14級事案であれば5年、12級ならば10年程度といっただいたいの相場があります
。
■基礎収入:原則として事故前年の年収を基礎収入とします。
※源泉徴収票や確定申告書等の公的な所得証明書類に記載された金額と合致していれば争いは生じないのですが、現実には、確定申告の申告書Bに記載された金額よりも実態は大きい収入を得ていた等として争いになることが多々あります。
(1-3)ポイント、事前認定と被害者請求
ⅰ 事前認定:加害者が加入する任意保険会社を通じて調査事務所に申請する方法です。
① 後遺障害診断書を渡すだけで良いので手続きが簡単。
① 時間がかかることが多い。
② 加害者側保険会社が自社のお抱え医師の意見書を添付することが可能性としてあり得る。
③ 自賠責保険金を示談交渉の時点で加害者側保険会社に握られたままになってしまう。
ⅱ 被害者請求:被害者が、損害調査事務所に等級認定を直接申請する方法です。
① 等級が認定された時点で等級に対応する自賠責保険金の支払いを受けられる。
② 事前認定に比べると早期に回答が来ることが多い
① 必要書類を揃える必要がある
→専門家に任せれば楽
(2)後遺障害等級が認定されるとどういうメリットがあるのか
後遺障害の等級が認定されると、「後遺障害慰謝料」「逸失利益(後遺障害が残っていることで将来にかけて稼ぎが悪くなってしまうので、その将来分の年収の一部を補償する利益のこと)」などが受けられるため、トータルの賠償額が大きくなります。
(3)被害者請求に必要な主な必要書類
被害者請求をするには、加害者が加入していた自賠責保険会社を通じて損保料率機構損害調査事務所という認定機関に必要書類を揃えて提出します。
書類の収集は、弁護士事務所に依頼すれば、フォローを期待できます。
ⅰ交通事故証明書~警察署から取り寄せる
→事故が発生したことの証明書
ⅱ通院した病院の診断書(症状固定の月まで毎月1枚ずつ、全部揃える)
→事故発生当初から症状が一貫しているのか
ⅲ通院した病院から診療報酬明細書(症状固定の月まで毎月1通ずつ、全て揃える)
→事故からどの程度、医療機関に通院しているのか通院が途絶えていないか、事故とは関係のない症状で通院していないのか
ⅳ後遺障害診断書(症状固定後に医師が書く。この書面の記載が結果を左右したりするため、後遺障害等級をとるための書き方マニュアル本等が出版されている。)
→医師は後遺障害を裏付けとなる検査結果としてどの様な結果を記録しているのか
ⅴレントゲン画像、MRI画像
→痛みは、客観的な画像所見で裏付けられているのか
2、認定の例と認定のポイント
(1)後遺障害非該当
後遺障害非該当については、以下のような事例がみられます。
①診療報酬明細書の記載上、医者への通院期間が3か月程度で終わっている。
②接骨院通いばかりで医者の診断書がない。医療機関へ通院した記録がない。
③提出された書類上で、一貫して同じ箇所の痛みに対する治療が続いているのか読み取ることが出来ない。
④3か月目程度で通院が途絶えてしまい、その時点で治癒したと捉えることが出来る。
⑤被害者が訴えている痛みを、医学的に説明できていない。
級についての結論 → 後遺障害非該当
損害賠償の考え方 → 後遺障害慰謝料なし。
逸失利益なし。
(2)後遺障害14級
残存する痛みを医学的に証明は出来ていないが、「説明はつくもの」です。
例えば、むちうちでは、「肩から頸部付近に残る痛みがあるけれど、骨折はしていないので、MRI画像やX線写真などによって痛みを医学的に証明できていない。」などといったことが挙げられます。①通院が5か月以上続いている。
②後遺障害診断書上、適切な神経学的検査テストで陽性所見が出ている。
③刑事記録や物損資料から事故態様として被害者の身体に加わった衝撃の程度が強いことを推定できる。(追突の勢いでバンパーがパカッと開いている写真や、車両の側面がへこんでいる写真が有るなど)
損害賠償(裁判所基準)→後遺障害慰謝料110万円+逸失利益の発生(事故前
年の年収×労働能力喪失率5%×労働能力喪失期間5年)
(3)後遺障害12級
ア 14級との違いは?
残存する痛みや痺れ等の神経症状が「医学的に証明されているもの」です。
-14級との違いは、症状を説明できるか、それとも証明までなされているかにあります。結局のところ、画像所見の有無が最大のポイントです。解像度の高いMRI検査装置等で再度、画像を取り直すことで異議申立が認められることも有ります。
例えば、MRI画像やCTスキャンの画像に
①骨折後の骨癒合の不全
②椎間板のヘルニア変性(マンガⅡ参照)
③椎骨の骨棘(骨がトゲ状に飛び出している様なイメージ)
④脊柱管狭窄症
などにより神経根が圧迫されていることが映し出されたMRI画像所見を証拠として提出できれば、12級13号が認定される可能性は生じてきます。
イ 画像所見について
画像所見をみるうえでポイントは、より厳密に分析していくと、
ⅰ 画像に症状を引き起こしている原因となった変性所見が映っているか否か、と
ⅱ 変性所見が事故によって生じたものなのか否か という2つに分解できます。
」として後遺障害12級。
損害賠償(裁判所基準)→ 後遺障害慰謝料290万円。逸失利益の算定
(事故前年の年収×労働能力喪失率14%×労働能力
喪失期間10年)。
補足~高次脳機能障害の等級認定~
~診療録、カルテ、各種神経心理学的検査結果、OT(作業療法士)評価報告書、 ST(言語聴覚士)評価報告書、神経系統の障害に関する医学的意見、頭部外傷後の意識障害についての所見、一切の記録を分析する必要があります。
事故前と比較すると、記憶する力が落ちた。注意を要する作業を持続することが出来ない。怒りっぽくなってしまい人間関係がうまくいかなくなった。頭部MRI検査では異常なし、という検査結果が出ているため後遺障害等級認定としては極めて低い扱いを受けている。。。
こういう悲劇的な事例こそ、交通事故裁判の専門家が頑張らなければならない事例だと思います。現代の医学水準では、脳内深部の損傷状況についてMRI検査ではまだまだはっきりと捉えられないことが多々あります。 特に、医療機関のレベルがあまり高くない地方都市だと、「高次脳機能障害」に陥っている被害者に対して適切なリハビリを案内できなかったり、診断書の記載上、「高次脳機能障害」の「こ」の字も書かれない場合があります。
診断書の記載に依拠する後遺障害等級認定の世界では、医療機関が適切な病状を捉えきれていないと、本来受けるべき適切な認定を受けられないということが起こるのです。
「脳内出血」「脳室の拡大」といった画像所見があれば、「頭部外傷後の神経系統の機能または精神の障害」として後遺障害3級、5級、7級、9級のいずれかの等級が認定されるでしょう。ところが、脳の損傷について画像所見がない場合は、非器質性精神障害として、せいぜい後遺障害12級といった認定がなされる程度です。ひどい事例だと脳内のMRI画像上何も損傷が映し出されていないとして、後遺障害非該当という認定がなされることもあります。
詳細は、 ■Ⅳ-② 高次脳機能障害にて解説してあります。