高次脳機能障害とは?原因や特徴、症状を分かりやすく解説
交通事故などに遭い脳に損傷が起きたときに現れるのが高次脳機能障害であり、人との約束を忘れてしまったり、集中力がないなど様々な症状が特徴です。
交通事故を機に「情報処理過程になんとなく前と変わった」と思うことがあれば、この高次脳機能障害の可能性があるかもしれません。
ここでは高次脳機能障害の原因・特徴・症状を詳しくご紹介していきます。
原因や特徴を知り、同じ症状があれば高次脳機能障害を疑いましょう。
高次脳機能障害は、すぐに治る病気ではないので正しく付き合っていく方法を身に付けることが大切です。
高次脳機能障害とは?

高次脳機能障害とは脳へのダメージが原因で起こる障害のことです。
脳は前頭葉・側頭葉・後頭葉・頭頂葉という4つの部位に分かれており、どこにダメージを負ったかによって出現する症状も違ってきます。
そして高次脳機能障害を抱える人は全国に数十万人いると推定されますが、外見では判断がしにくいため「見えない障害・隠れた障害」とも言われています。
高次脳機能障害の原因

では、高次脳機能障害はどんな原因によって発症するのでしょうか。
突発的に起こる可能性があるなら恐ろしいですよね。
原因として3つのことが考えられます。
原因1.脳血管障害
まずは脳血管障害です。
脳には無数の血管が存在しており、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)を起こしたことによって脳に障害が残ります。
これら脳の病気は血管の中が破裂したり、血栓ができてしまい血の流れが滞る状態になります。
高次脳機能障害を抱える人の約8割はこの脳血管障害が原因だと言われています。
原因2.外傷性脳障害
外傷性脳障害は、交通事故などで外から強い衝撃を加えられることで起こります。
例えば頭を強く打ち、脳外傷を負うなどです。
ただしこちらが原因となるのは全体の1割程度と言われています。
原因3.その他
脳血管障害と外傷性脳障害以外に考えられる原因としては、以下のものがあります。
- 脳炎
- 窒息や心筋梗塞から起こる低酸素脳症
- 脳腫瘍
- 症候性てんかん
- 正常圧水頭症
- パーキンソン病などによる脳の損傷
またアルコール依存症でも脳に障害を負うことがあるので、節度ある飲酒にも気を付ける必要があります。
高次脳機能障害の特徴

続いて高次脳機能障害の特徴を見ていきましょう。
ここでは3つの特徴を紹介していきます。
高次脳機能障害には特徴があり、理解しておくことで早期発見や治療にも繋がります。
特徴1.外見では判断しにくい
冒頭でも触れましたが、高次脳機能障害は外見では判断しにくいのが特徴です。
高次脳機能障害は、身体障害のように見てわかるものではありません。
また、日常動作や日常会話からは明らかに障害だと気付かれにくく、高次脳機能障害を知らない人にとっては物覚えが悪い人であったり、怠け者と捉えられてしまうこともあります。
特に高次脳機能障害の原因が発生する前からの付き合いがなければ「こういう人なのか」と思われてしまうこともしばしばあるでしょう。
特徴2.先天性の病気ではない
先天性の病気ではないことも高次脳機能障害の特徴です。
高次脳機能障害になるには必ず原因があります。
先天的に患っていることはなく、脳卒中や脳外傷など何かしらのきっかけがあって発症するものです。
つまり突発的に発症するものではありません。
しかし、脳卒中や脳外傷によって後々に引き起こされることもあり、すぐに症状が出なかったからといって安心することはできないでしょう。
特徴3.進行性の病気ではない
また、進行性の病気ではないということも特徴の1つです。
悪化していくような進行性ではなく、根気強く治療をしていけば症状が緩和されることもあるようです。
緩和していく機序についてまだまだ研究は進んでいないようですが、脳内で損傷していない部位同士で新たなネットワークを築いて情報の伝達経路が形成されていったり、まだまだ脳には一般には知られていないことが多くあるようです。
悲観的にならず自分に合ったリハビリを続けていきましょう。
高次脳機能障害の症状

続いて高次脳機能障害の症状について見ていきます。
脳は言語や記憶・注意・情緒といった様々な機能を司る臓器です。
つまり脳に障害が起こるということは、その症状も多岐にわたります。
またダメージを負った部分がどの部分かによって出現する症状も人それぞれであるため、一概に全ての症状が当てはまるというわけではありません。
交通事故などに遭った後に当てはまる症状が出てくると、高次脳機能障害を疑っても良いでしょう。
症状1.記憶障害
まず、記憶障害の症状があります。
人の名前やお店の名前を覚えられない、待ち合わせをした約束時間を忘れてしまうなど、日常生活の中でも「ん?」と思われてしまう場面があります。
特に初めて知ることを覚えられなかったり、同じ間違いを繰り返したりしてしまうということが多いと記憶障害かもしれません。
【記憶障害の症状例】
- ・物の置いている場所を忘れる
- ・新しいことを覚えられない
- ・同じ間違いを繰り返す
- ・同じ質問を繰り返す
- ・外出しても普通の人は動画の様に記憶が積み重なっていくところが、写真の様に断片的な記憶しか残らない
症状2.注意障害
注意障害は、認知機能の前提となる物事に対し注意を続ける力が低下する、散漫になるなどの障害です。
同時に複数のことを行うのが苦手で、時にボーっとしてしまうことがあります。
集中力がなく気が散りやすいことから、周りの人からは落ち着きがない落ち着きがないなどと思われてしまうことがあるでしょう。
仕事面においても作業がなかなかはかどらないことも多く、周りと同じペースで進めるのは難しいことがあります。
【注意障害の症状例】
- ・ボーっとしてミスが多い
- ・2つ以上のことを同時に行えない
- ・作業を長く続けられない
- ・単純なミスが多い
- ・気が散る
- ・例えば耳から雑音が聞こえてくるなど、作業を向けている対象とは別の情報が入ってきてしまうと集中して作業を続けることが難しくなってしまう
症状3.遂行機能障害
遂行機能障害とは、目標の設定、企画計画の立案、計画を実際に行うこと、目的に向かって効果的に行動をすることが出来ない障害です。
平たく言えば、何かをしようと計画をたてたり、作業を手際よくできないことです。
段取りが組めなかったり、計画性なく物事を進めてしまう傾向にあります。
周りから見れば「衝動的な行動」と捉えられてしまうことがあったり、段取りが悪く「自分は仕事ができない」と消極的になってしまいがちです。
【遂行機能障害の症状例】
- ・計画を立てて実行できない
- ・約束の時間に遅れる
- ・臨機応変に対応できない
- ・例えば、仕事面に限らず、友達と旅行に行こうとしてインターネットで情報を集めたり、旅行先へ行ったことのある経験者から情報を集めたりして、自分達もどこかへ行ってみようと計画を立てたり、計画通りに滞在1日目はどこへ行って何をしてという行動が出来ない
症状4.社会的行動障害
社会的行動障害とは、感情や欲求のコントロールが上手にできないことを言います。
その為「怒りっぽい人」や「子供っぽい人」と思われることもあるのです。
やる気がないように見えたり、現に意欲が沸かなくなることもあります。
人とのコミュニケーションがうまくとれないのも症状の1つで、人付き合いが苦手と感じる人もいます。
【社会的行動障害の症状例】
- ・暴力を振るう
- ・自己中心的になる
- ・怒りっぽい
- ・1つのことにこだわる
- ・人の気持ちを考えられない
- ・周りの人からも障害が目にみえないので理解してもらえず、「自分の都合の悪いことだけ出来ないんだな。」などと言われてしまい、過剰に激昂してしまうなど病的な反応を示す
症状5.失語症
失語症も言葉の通り言葉が出てこないことです。
野球の長嶋茂雄監督も脳梗塞により、失語症になったことから高次脳機能障害=失語症というイメージが沸くという人が多いかもしれません。
失語症の症状には言葉が出てこない(上手く話せない)だけでなく、相手の話が理解出来ないこともあります。
【失語症の症状例】
- ・会話することが難しい
- ・言い間違いをすることが多い
- ・言葉の意味が分からなくなる
- ・会話自体は出来ても、相手の言っていることを理解するのに一瞬の時間を要する(神経ネットワーク、情報処理過程に損傷が生じているので)。
- ・パッパッと言葉が出てこないなか、何とか言葉をひねりだそうとして会話するので、頭の回転が遅くなったように感じられる
症状6.失行症
また、失行症も高次脳機能障害の症状の1つです。
失行症とは行為の順番や、道具の使用方法などがわからなくなる症状を言います。
意識せずに行う行動は問題なく出来ますが、意図的にしようとしたり、真似をしようとするとどうして良いか分からなくなります。
食事や着替え・字を書くなど普通にできていたことができなくなることがあるのです。
【失行症の症状例】
- ・道具の使い方がわからなくなる
- ・服を着られなくなる
- ・ご飯の食べ方がわからなくなる
- ・周囲からみると、ものすごく幼くなっていくような症状に感じられてしまう
症状7.半側空間無視
半側空間無視という症状が現れることもあります。
これは視力に問題がないのに、目にする空間の半分側に気が付きにくくなることです。
右側の脳にダメージを負えば左側が認識しにくくなりますし、左側の脳にダメージを負えば右側が認識しにくくなります。
道を歩いていて左側にある電柱に気付けなかったり、右側にある味噌汁を認識できず残してしまうなど様々な場面で問題が起こるでしょう。
【半側空間無視の症状例】
- ・食事の際、片側にある食べ物を残す
- ・歩いている際、片側にあるものにぶつかる
高次脳機能障害の診断基準

では、高次脳機能障害の診断基準とは何をもって決まるのでしょうか。
診断を下すには下記の2つの診断基準があります。
もしかしたら…と思い当たる場合は検査を受け、診断を下してもらい正しい対処をしていきましょう。
診断基準1.症状
まず、診断基準の1つとして高次脳機能障害と思われる症状が現れているのかということです。
日常生活や社会生活において記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害などに思い当たる節がある場合、高次脳機能障害の可能性があります。
また症状の自覚に伴って、脳がダメージを負う原因となる脳卒中や外傷の事実がある場合は次の診断基準である脳の検査に進むようにしましょう。
診断基準2.脳の検査
自覚症状・ダメージとなる事象がある場合、病院で脳の検査を受けることをおすすめします。
具体的にはMRI・CT・脳波などにより脳の器質的病変の存在が確認されるか検査をします。
損害賠償の世界では、MRI・CTなど信頼性への評価が確立された画像診断方法が重視されています。
しかし、身体障害者手帳の交付など、(賠償ではなくて)行政による保護が必要か否かという場面では、診断書により脳の器質的病変が存在したと言えるのか否か慎重に判断していくとされています。
高次脳機能障害の治療方法

続いて、高次脳機能障害と診断されたらどのような治療方法があるのかについてお話していきます。
進行性の病気ではない上に、脳は学習する臓器で、神経ネットワークが新たに形成されたりすることもあるようです。
治らないと諦めるのではなく、症状が緩和されるためにはどうすれば良いか考えていきましょう。
治療1.基本はリハビリテーション
高次脳機能障害に有効なのは基本的にリハビリテーションです。
脳は学習する臓器と言われるようにダメージを受けていない部分を使ってあげることで、ダメージを受けた部分を補う新たなネットワークが構築されます。
これは脳のどの部分にダメージを負ったかによってリハビリの内容も大きく変わるため、一人ひとりに合ったリハビリメニューを作成する必要があります。
お医者さんだけでなく、言語聴覚士・作業療法士・臨床心理士など多くの専門家の力が必要になります。
高次脳機能障害のリハビリを専門でやっている病院を探すことと、診断が下されたら出来るだけ早くリハビリに取りかかることが大切です。
治療2.認知行動療法
認知行動療法という治療方法も有効です。
これはうつ病や不安障害を抱える人にも用いられる治療法ですが、人間は何かが起こった時「良いこと」なのか「悪いこと」なのか決めつけようとします。
高次脳機能障害を抱える人も記憶障害や遂行機能障害で自分はダメな人間だと思い込んでしまうことがあります。
そんな時こそ考え方や認知の仕方に働きかけ、気持ちを楽にしたり行動をコントロールできるようトレーニングしていく大切な治療法の1つです。
高次脳機能障害の日常生活での対処法

高次脳機能障害になると日常生活の様々な場面で困ったことが起こります。
そんな時はどんな対処をすれば良いのでしょうか。
それぞれのシチュエーションに対して、対処法をまとめてみましたのでぜひ参考にしてください。
対処法1.忘れやすい場合
まず、記憶障害からくる忘れやすい場合です。
仕事の取引先の場所や相手の名前、今日中に終わらせなければならない仕事など、日常生活には忘れていけないことが多々あります。
このような忘れてはいけないというものに対しては、小まめにメモをとる習慣をつけると良いです。
ゴミを出す日や美容院の予約など付箋にメモを残し、玄関や冷蔵庫など目に付くところに貼っておくのも有効でしょう。
対処法2.コミュニケーションがとりにくい場合
コミュニケーションがとりにくい場合の対応についてです。
まず失語症が見られる方に対しては、本人が理解しやすい言葉に言い換えたり、単語に区切って声掛けをしてあげると良いです。
あまり長い文で投げかけてしまうと困ってしまいます。
また言語理解が困難な人に対しては指差しやジェスチャーを用いると伝わりやすいので試してみてください。
対処法3.ぼーっとしやすい場合
また、注意障害からぼーっとしやすい場合もあります。
決してやる気がないわけではありません。
周りが障害を理解していないと無気力な人と思われがちですが、これは障害からくるものです。
周囲の人は、このことを理解して差し上げることが何よりも大事だと思います。
ぼーっとしている時に仕事や大事なことを進めようとすると失敗をしてしまったり危険を伴います。
無理はせず仕事を一日置きにしたり半日にしたりとその時の調子をみて臨機応変に対応していきましょう。
対処法4.怒りっぽくなった場合
時には怒りっぽくなったり、相手の気持ちが分からなくなることもあります。
そんな時は周囲の人となぜそうなってしまったのかしっかりと話し合いをし、原因を考え取り除いてあげることが大切です。
トラブルが起こったままにしてしまうと、自尊心が減っていき自分を肯定的に見られなくなっていきます。
「自分は仕事ができない」「人付き合いも上手にできない」とネガティブ思考に陥ってしまうでしょう。
そうならないためにもその都度話し合いをするようにしてください。
目に見えない障害として、高次脳機能障害を知らない人にとっては、障害を理解されにくいという現実を認識しておくことも必要です。
そのうえで、例えば、市役所や職場などしばし訪問する現場においては、高次脳機能障害という障害を抱えていることを知ってくれていて、症状を理解してくれている人を増やし、なるべく衝突を生まないような環境作りも大切だと思います。
対処法5.仕事が進まない場合
遂行機能障害によって仕事が思うように進まないこともあるでしょう。
そんな時は「効率よく」や「同時に複数のこと」を考えず、1つずつ作業を進めていくと良いです。
また、静かな環境で仕事をするのも有効です。
電話の音や子供の声、食器が触れる音など集中すべき対象とは異なる情報が入ってくると、情報処理過程に混乱が起こってしまうのです。
付箋のメモをここでも活用し、仕事の順序を書いておくのも良いでしょうし、何よりも周囲の人が理解してあげることが一番大事だと思います。
交通事故で高次脳機能障害になったとき

交通事故がきっかけで高次脳機能障害になってしまうこともあります。
もしもそうなってしまった時、どんなことに気を付ければよいでしょうか。
以下の3つのことを頭に入れ、いざという時も正しい選択ができるようにしておきましょう。
1.後遺障害として認められる
まず、交通事故で高次脳機能障害になった場合、後遺障害として認められることが大半です。
後遺障害等級1~14級の認定は意思疎通能力・問題解決能力・作業負荷に対する持久力・社会行動能力を見て判断されます。
後遺障害の認定を受けていれば、後遺障害を負ったとして慰謝料が請求できるため、高次脳機能障害を疑った際は必ず受診するようにしましょう。
2.慌てた示談は避ける
また、交通事故の際には、必ず慌てた示談は避けるようにしてください。
交通事故に遭った時、お互い目立った外傷や自覚症状がない場合に多いことです。
しかし、高次脳機能障害を含め、脳のダメージは後から発症することもあります。
示談にはせず警察に人身事故として届け出て、保険会社を通すようにしてください。
3.専門の弁護士に相談する
そして、専門の弁護士に相談することを忘れないことです。
高次脳機能障害は後遺障害のため、今後の生活に大きく関わってきます。
ネットで調べた知識だけでは対応できないことも出てくるでしょう。
高次脳機能障害と診断されたら、相談できる専門の弁護士を見つけておくと後々助かります。
「困ったら探せばよい」と安易に考えず、診断が下ったら早めに弁護士を探しておきましょう。
まとめ
ここまで高次脳機能障害の原因・症状に触れ、診断基準や対処法をお話してきました。
高次脳機能障害は、主に脳卒中や交通事故によって起こり言語だけでなく注意力が落ちたり、情緒が安定しなかったりと生活に支障をきたす様々な症状が出ます。
また周りの人が障害についてしっかりと理解を深め、本人も適切なリハビリを行うことで症状を改善し良好な関係を築いていけるでしょう。