退院後~症状固定日まで
1、自宅付き添い費、通院付き添い費
(1)症状固定日までの身体的な意味での自宅付き添い費用
退院した後も、平衡感覚に障害が残ったことで
「自宅で階段から転げ落ちて大怪我をしてしまった。」
などといった話もしばし耳にします。
退院後に怪我をしないようにするため、自宅での身体的な付き添いも必要になってくるというのも現実だと思います。
症状固定日までの自宅での付添費は、症状の程度、内容によって、日額2000円~1万1000円といった額で賠償の対象として認められる事例が多数あります。
例えば、遷延性意識障害の会社員につき、病院に空きがなくて入院できず、自宅にて左足を付け根から足先までギプスで固定してほとんで寝ている状態で、食事以外のほとんどにつき母親の介助を必要とした事案で、日額8000円×30日=24万円を認めた裁判例などがあります。
(2)看視、声かけが必要な場合の自宅付添費
また、高次脳機能障害に陥った方の症状の出方の一つとして、
「自分が病気だという認識がない。」
「病識がない」
という症状の出方をする方もいて、せっかく退院したのに、
「自分で車を運転して事故を起こして怪我をしてしまった」
という話も聞いたことがあります。
身体的な介護までは必要がなくても、看視、声かけが必要な場合、症状固定日までの自宅付添費が日額2000円(後遺障害7級事案)~6000円(後遺障害3級事案)といった単位で賠償の対象とされた裁判例があります。
自宅付き添い費、通院付き添い費として日額○千円といった単位での損害を認めるか否かは、
「日常生活状況報告書」
「神経系統の障害に関する医学的意見」
という定型の書式から、日常生活動作(ADL)が自立しているか否か、自立の程度をどのように読み取れるかが1つのポイントになってきます。
保険会社は、看視、声かけが必要な見守り的な意味での介護費用については容易に認めません。しかし、裁判を起こすと、日常生活動作が自立していて身体的介護は必要でなくても、見守り的な意味での介護は必要として損害評価してくれる事例も結構、散見されるのです。
3)介護施設費用
常時介護が必要な後遺障害1級、随時介護が必要な後遺障害2級といった事案ですと、日常生活動作すら自立して出来なくなっていることが通常で、介護施設費用や転居費用も賠償の対象とされる場合もあると思われます。
2、退院後の通院交通費・宿泊費等
(1)タクシー利用料金
退院後もリハビリ等の通院が続くことが多いと思われます。
被害者本人の症状や交通事情などによりタクシー利用が相当と認められる場合、タクシー利用料金は事故と因果関係のある損害と評価されます。
(2)電車・バスの料金(付添人の交通費として認められる場合もあり)
電車・バスの料金として、通院付き添いの必要性が認められれば付添人の交通費も損害として算定されます。
3、留年・進級の遅れに伴う学費、下宿代などの費用
学生の場合、留年・進級の遅れに伴い学費などの費用が追加でかかってきてしまうことがあります。
高次脳機能障害事案ですと、追加の学費、授業料、補習費、ムダになってしまった定期代や下宿代などの費用についても肯定する裁判例は多々ある以上、保険会社に支払いを求めていくべきです。
4、車椅子、装具・器具等購入費、レーシック手術費用、インプラント治療費
高次脳機能障害事案では、頭部外傷のみならず、歯、眼球、腕、足も大きくケガをしてしまう事も多いです。脳を損傷したことにより、派生して身体に症状が出ることも多々あります。
例えば、義歯、義眼、義手、義足といった装具・器具、車いす等の購入費やレーシック手術費用など、相当期間で交換の必要があるものは将来の費用も含めて原則として全額を損害として認められることが多いです。
ポイントは、高額な費用ほど、必要性、相当性、耐用年数などの判断がシビアになってくることで、保険会社と裁判所の考え方にやや差がみられるところです。
5、自宅改造費、家屋等の改造費
高次脳機能障害のみならず、半身不随、体幹機能障害、遷延性意識障害を伴う事案では、浴室・便所・出入り口などの家屋の改造費や自動車の改造費が損害賠償の対象として認められる場合があります。
賠償の対象として認められるか否かの基準は、「被害者の受傷の内容、後遺障害の程度・内容を具体的に検討し、必要性が認められれば相当額を認める。」という抽象的なもので運用がなされています。
例えば、
自宅に手摺りを取り付ける場合、被害者がトイレに立つためには廊下を歩いて部屋を移動するのに必要なのだとか、
胸髄損傷による両下肢の麻痺が残っているために屋外用車イスが必要(※室内用と別の車椅子)であるとか、
トイレ改造費、車イス用に玄関の段差をなくす工事など、
工事前の自宅の様子を写真撮影しておいて、工事の必要性を立証することを考えつつ、工事業者から見積書を取り付けて保険会社と交渉していくべきなのです。自宅改造に、大がかりな予算を伴う工事が必要な事案ほど、弁護士を介入させておいた方が良いと思います。保険会社は、改造の必要性を結構争う傾向にあると感じています。