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事故直後に知っておくと良いこと~初期の資料収集・保管~

1、ポイント:できれば急性期頭部MRI撮影をしてもらうこと

(1)頭部CTだけでは脳損傷を捉えきれてない場合もある

交通事故により軽度の脳損傷が起こった場合、事故直後に頭部MRIを撮影していれば病巣がわかることもあるものの、時間が経つと脳内の損傷が回復することで画像所見上、損傷がはっきりとわからなくなってしまう場合も相当数あると思われます。

多くの病院では、頭部CTを撮影して問題がなければ、「頭部に異常なし」という所見が下されるのですが、本来、急性期(≒事故直後)MRI撮影をしておけばCTでは捉えきれなかった損傷を捉えられることもあるようです。

病院で、頭部CTの結果、「問題なし」と言われても、患者の側で「大丈夫かな?おかしいかな。」と思ったら頭部MRI撮影をしてくれる病院を探すべきだと思います。

「頭部CT検査の結果、頭部に異常なし」と診断されていたのに、しばらくしてから高次脳機能障害特有の症状が目立つようになり、後遺障害評価や損害賠償で紛争となる事例は世の中にたくさんあるからです。

(2)逆に、びまん性軸索損傷は、受傷直後に画像で発見されず、3~6か月経過して画像所見が得られる場合もある

逆に、びまん性軸索損傷(脳内の深いところの神経細胞の損傷、断裂)の場合、受傷直後には損傷が画像で捉えられないこともあります。約3か月~6か月が経過した時点で、脳室や脳溝の拡大などにより脳萎縮、脳幹損傷がMRI所見としてはっきりしてくると言われており、画像所見の収集、確保は医師と本音でよく相談しておくべきだと思います。

2、警察へは人身事故として届け出、加害者の処罰を望むという意見を出す

ポイント①:病院の次に対応していくべきは警察署で、病院で診断書をもらったうえで、警察へは人身事故として届け出をしておくべきです。

ポイント②:そのうえで、加害者の処罰についての意見としては、「加害者の厳重処罰を望むという意見」を出しておくべきです。

結果:開示される刑事記録の範囲に違い

人身事故として届け出をして、加害者が不起訴ではなく起訴されて処分を受けると、被害者に開示される刑事記録の範囲が広くなってきます。

後々、交通事故の状況によって怪我の程度や過失割合などが問題となってくるときに、警察署で作成された刑事事件の記録が証拠として大きな意味を持ってくることが非常に多いのです。

※不起訴処分だと、実況見分調書のみ開示される。
※起訴処分だと、目撃供述とか、事故直後の当事者の供述調書も開示される。

                                                              

3、保険会社との損害賠償の話合い

(1)治療初期段階:治療関係費、交通費、休業損害

交通事故に遭うと、通常、加害者が入っていた保険会社との話し合いが始まります。まず、保険会社に医療記録の開示に同意する旨の同意書を提出するやりとりを経て、治療費を保険会社が医療機関に直接支払う旨の説明がなされるのがよくあるパターンです。

治療初期段階では、高次脳機能障害事案の被害者側は、損害費目のうち、
①治療費・検査費用の負担の確認、②病院への駆けつけ交通費の精算、③入院雑費の支払い、④休業損害関係の支払い
に向けて保険会社との話し合いを進めていく必要があります。

殊に、休業損害の話合いは遅れがちで、生活費が苦しくならないように早目に「休業損害証明書」という定型の書式を保険会社に送ってもらうべきです。

法律上、交通事故の被害者は、加害者に対して、交通事故と因果関係がある全ての「損害」を賠償してくれと求める権利があるとされています。

何をもって事故と因果関係のある「損害」と評価するかの内訳については、過去の裁判例である程度ルール化されています。

保険会社も、過去の裁判例を認識しつつ、「治療費」「駆けつけ交通費」「入院雑費」「休業損害」「慰謝料」「後遺障害慰謝料」等といった名目(損害費目といいます)ごとに、ある程度決まった通りにお話合いを進めてくるのが通常です。

被害者ご家族は、どのような名目でお金を請求できるのか?どの様な場合にお金をいくらぐらいもらえるのか?を専門家と相談していくべきです。

【治療初期段階で保険会社と話合いを進めておくべき損害費目】

(2)保険会社へ診療報酬明細書を開示する旨の同意書は出して良い

よく受けるご質問として、「保険会社から、病院での診断書、診療報酬明細書などの開示を受ける同意書を出しても良いのか?」という質問があります。

事故の発生によって疑心暗鬼になっている心理状態からのご質問かと思うのですが、同意書を出さないと保険会社から治療費の支払いがなされず、治療を受け続けることが出来ませんので、同意書は提出して良いのです。

4、それよりも、保険会社の基準と裁判所の基準とでは支払いの基準に大きな差があることを理解しておく

(1)3つの支払い基準

ところが、支払いがなされる保険金の基準については、保険会社独自の基準で算定されているのが通常で、保険会社の保険金支払い基準と裁判所運用基準とでは大きな差があるのが通常です。保険会社の基準の方が低いのです。

特に、高次脳機能障害事案では、賠償額が高額になりがちであるため、保険会社が支払う保険金額を抑えようとしてくる傾向は特に強くなります。

【異なる支払い基準】

① 自賠責基準(強制保険、最低限の補償)

自賠責保険とは、自動車、バイク、原付を使用する際には、自動車損害賠償保障法という法律によって加入が強制されている保険です。
ケガを伴う人身事故に遭った被害者が、全く補償を受けられないことがないようにする為の保険で、慰謝料を1日入通院あたり4200円、主婦休業損害1日5700円など定型化されており、傷害(ケガ)分の総額として120万円の限度額が設けられています。

後遺障害等級が認定されれば、別途支払い基準が設けられています。

保険会社は、「自賠責保険の基準で算定した損害額です。」などと言って休業損害の提示をしてきたりするのですが、被害者は、必ずしも自賠責保険の基準で算定した賠償額しか受け取れないわけではないことに注意が必要です。

② 任意保険会社独自の基準(裁判所基準の60%ぐらい)

保険会社から提示される休業損害や慰謝料などの提示は、ほぼ全てが裁判所の基準とは異なっていて、安く抑えられています。

加害者がどこの損害保険会社、共済組合などに加入していたかによって多少左右されるのですが、だいたい裁判所基準の60%程度の基準で示談金の提示がなされているという感覚があります。

適正な賠償基準で賠償を受けられるのであれば、交通事故の被害者にとってみれば、弁護士費用はもとがとれるという程度に賠償基準に差があるため、弁護士による公告サイトが沢山あるのです。

③ 裁判所基準

裁判所に裁判手続きを起こした場合の基準で、本来、交通事故の被害者が受け取れるはずの金額が算定されます。
弁護士に依頼をされると、弁護士は、保険会社に対し、「裁判所基準で計算した損害額だと約〇〇〇万円になる。」という書面を送ります。

そして、保険会社の反論を聞きながら、依頼者と相談し、「裁判所基準の90%で示談する」とか「納得がいかないから訴訟を起こして解決する」といったやりとりを依頼者と進めていくのです。

裁判所の基準は、いわゆる赤い本という日弁連交通事故相談センターが発行する「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」という本などに記載されています。

(2)保険会社からの示談金の提示について-損害費目の提示そのものが損害として計上されていないケースもある

症状固定に至った後、保険会社から提示された示談金の内訳を検討していくと、賠償金の基準が不当に低いのみならず、本来、裁判を起こした場合、受け取れるはずの損害費目について提示そのものが全くないということも多々あります。

例えば、温泉治療費や住宅改造費、付き添い看護費、将来介護費など、本来、認められるべき損害費目について、任意保険会社独自の基準で全く提示がなされていない場合でも、裁判所の基準であれば認められるということは多々あります。

被害者は、裁判所の本来的な考え方を理解したうえ、賠償金を不当に安く抑えられてしまわないように対応していく必要があります。

5、初期段階で保管しておくべき手持ち証拠:物損の資料、刑事記録

保険会社との話し合いを始める初期段階では、「初めての大きな事故でどうしたら良いのかわからない。大丈夫だろうか?」ととにかく心配が膨らむばかりというのがむしろ普通です。

気持ちの持ち方としては、「交通事故の被害に遭ったのは間違いのない事実なのだから、きちんと賠償を受けられるように証拠資料は集めておこう」という考え方を持つのが良いと思います。

そのうえで、事故直後の初期段階では、
①物損の資料頭部受傷を示すものex:ヘルメット、運転席フロントガラスの破損状況を示す写真、車の修理工場で作成された資料など)を入手しておくと良いと思います。

警察による捜査が終了し、検察庁か或いは裁判所で処分が決められた後の段階では、
②刑事事件の記録(加害者は過失運転致傷罪という刑事事件の被疑者になるため、実況見分調書や目撃者の供述などが記録されるのです。)
を入手しましょう。
入手方法は、弁護士に頼めば早いです。

ご自身で入手するには、

  • まず、取り扱い警察署にて「交通事故証明書」を入手する。
  • 「交通事故証明書」に書いてある事件を取り扱った警察署の交通捜査係へ 連絡を入れて、
  • 「何年何月何日発生の交通事故の被害者だが・・・」と伝え、
  • 「書類送検された検察庁がどこか、検察庁へ書類送検された日付け、書類送検された際に付けられる送致番号(検番まで分かればなお良し)など、刑事記録入手に必要な情報を開示して欲しい。」と伝えて下さい。
    そのうえで、
  • 書類送検された検察庁に連絡を入れて、開示可能な刑事記録のコピーをとらせてもらってくるのです。

③救急隊の資料(画像所見が得られない事案)
高次脳機能障害を発症しているにも関わらず、初診時に意識障害がない&MRI画像、CT画像などの画像所見として脳損傷が確認できない場合、事故発生直後に事故現場に駆けつけた救急隊の記録が役立つことがあります。意識障害のレベルが記載されているからです。

救急隊の記録は、市区町村の消防局長が作成者となっており、情報開示を求めていくことで開示を受けられるのが通常です。

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