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①心理検査(知能、記憶、注意の検査)からわかること(高次脳機能障害の検査)

①心理検査(知能、記憶、注意についての検査)
②作業療法士(OT)による検査について
③言語聴覚士(ST)による検査について

(目的)高次脳機能障害の患者さんに対しては、日常生活を円滑に過ごしていくことを目的とする的確な訓練(リハビリの内容)が何かを把握する必要があります。
(検査)そのため、対象者の状態(何が出来て、何が出来ないか、どの機能が損なわれたと推定できるか)を検査によって把握することが必要になります。
沢山ある検査のうち、①心理検査としては、

【心理検査】
ⅰ ウェクスラーの知能検査(WAIS-Ⅲ)
ⅱ 記憶についての検査
ⅲ 注意に関する検査

から構成される心理検査が実施されることが多くみられます。

各種検査結果は、リハビリ訓練の方法や今後の生活を支える重要な情報となるのですが、損害賠償の視点からみても、重要な意味を持つ情報となります。

(1)①心理検査(知能、記憶、注意についての検査)について

ア 知的機能の検査ついて

    • ~WAIS-Ⅲ(ウェクスラー成人知能検査)について
      WAIS-Ⅲ(ウェイス・スリー)テストとは、
      ①言語性知能(VIQ)
      ②動作性知能(PIQ)
      ●全検査知能(FIQ)
      を測定し、個人の得意・不得意の測定を試みています。
      リハビリの世界では、脳のどの様な機能が、どの程度損傷しているかを把握していく情報になるのです。
    • WAIS-Ⅲの下位検査-後天的な知能低下の場合、点数がバラつく
      WAIS-Ⅲは14項目の下位検査によって構成されていて、具体的には、次の様なテストが実施されるのです。※受験者が事前に知ってしまうと、正しい結果が得られなくなるため、意図的に内容には二重線を引いています。

言語性検査

下位検査項目 テスト内容、測定される能力 具体例
知識

一般的な事実についての知識量

(例「お正月は何月何日ですか。」)

理解

実用的知識、過去の経験についての評価と利用、常識的行動についての知識、社会的成熟度を確認するテスト。

(例「火に触れるとどうなりますか。」)

算数

数学問題、計算力のテスト。

(例「500円で82円切手を何枚買えますか?」)

類似

提示する二つの共通点を指摘させるテスト。論理的範疇的思考

(例「りんごと梨の共通点は何ですか?」)

単語

単語に関する知識を問うテスト、ある単語を提示して、その意味を答えさせるテスト。

(例「ジュースとは何ですか?」)

数唱

試験者が述べる数字を、被験者が復唱するテスト。復唱する方法で、順唱と逆唱に分かれる。暗唱と即時再生、順序の逆転を問うテスト

(例 試験者[1、2、3] :被験者 順唱[1、2、3]、逆唱[3、2、1])

語音整理

試験者が数字とひらがなを述べる。それを聞き、被験者は数字は小さい順に、ひらがなはあいうえお順に並びかえるテスト。

(例 試験者[う、3、い、1] :被験者 [い、う、1、3]あるいは[1、3、い、う])

動作性検査

下位検査項目 テスト内容、測定される能力 具体例
絵画完成

試験者が、未完成の絵を被験者に提示して、何が足りないかを説明させるテスト。視覚刺激に素早く反応する力、視覚的長期記憶の想起と照合

(例 短針長針のない時計の絵を見せて、それの不足を指摘させる)

符号

1~9に対応させる記号を示し、1~9をその記号に置き換えさせるテスト。指示に従う力、事務的処理の速さと正確さ、紙と鉛筆を扱う技能、精神運動速度、手の動作の機敏さ

(例 1~9に対応する記号をa~iとして、「5、3、7、8」を「e、c、g、h」に置き換える)もの

積木模様

赤白の積木でできた模様の絵を被験者に示し、実際に被験者に積木で再現してもらうテスト。全体を部分に分解する力、非言語的概念を形成する力、視空間イメージ化

 
行列推理

一部が空欄の図を見て、下の5つの選択肢から、空欄を埋める図を選ぶテスト(いわゆる、穴埋めテスト)。

 
絵画配列

4枚の絵を並べて、物語を完成させるテスト。結果の予測、全体の流れを理解する力、時間的順序の理解、及び時間概念を問う

 
記号探し

異なる種類の複数の記号の中から、指定した特定の記号を探すテスト。

(例 「A、☆、G、か、?・・・」という複数の記号の中から、「☆」を指定して、探してもらう。)

組合せ

いわゆるパズルを組み立てるテスト。視覚-運動フィードバックを利用する力、部分間の関係の予想

 
■下位検査の評価点は10点が健常者の平均点であり、
■知的機能(VIQ、PIQ、FIQ)100が健常者の平均となります。
■半分くらいの人が90~109点の範囲内に入り、
■FIQ(フルIQ)70~79点は境界域 と評価され、
■FIQ(フルIQ) 69点以下は知能障害 と評価されます。

交通事故による脳損傷など、後天的に知的機能が低下した場合、先天的な知的機能の低下と異なり、下位検査間での点数にばらつきが認められることが多いのが特徴的といえます。

  • 4つの群指数の点数化―より多面的な把握、解釈が可能
    <WAIS-Ⅲ検査の構成図>

    WAIS-Ⅲ検査の構成図

    WAIS-Ⅲ(ウェイス・スリー)は、WAIS-R(ウェイス-アール)という従来の検査よりも新しい最新型の検査方法と評価されていて、国際的に広く使用された信用性の高い検査と言われています。
    WAIS-Ⅲ検査は、
    ①言語性IQ
    ②動作性IQ

    という2つの区分の測定による個人の得意・不得意の測定のみならず、下位検査の評価点から
    ⅰ言語理解(VC)
    ⅱ知覚統合(PO)
    ⅲ作動記憶(WM)
    ⅳ処理速度(PS)

    という4つの指標(群指数)に点数化がなされます。
    WAIS-Ⅲは、①言語性IQ、②動作性IQの2つの区分の測定よりも、被検査者の知能評価をより多面的に把握し、解釈することが可能な検査と言われています。

  • 4つの指標
    ⅰ言語理解とは、言語の理解力、言葉による思考力、言語による表現力を意  味しています。
    「知識」、「単語」、「類似」という下位検査からなる群指数です。   

    ⅱ知覚統合とは、主として視覚的な理解力を示し、いくつかの刺激や情報の 関連性を理解する能力や、視覚と運動を協力させて課題を解く力を意味しています。
    「絵画完成」、「積木模様」、「行列推理」という下位検査からなる群指数です。

    ⅲ作動記憶とは、一度だけ聞いた言葉や数字を、そのまま数秒~数十秒の短
    期間記憶しておく力や、短期記憶した情報を使って計算などの作業をする力
    を意味しています。
    「算数」、「数唱」、「語音整列」という下位検査からなる群指数です。

    ⅳ処理速度とは、一瞬目で見た絵や空間などを覚えておく力(視覚的短期記憶)や、視覚性の短期記憶を使って作業をする力とスピードを意味しています。
    「符号」、「記号探し」、「組合せ」という下位検査からなる群指数です。

    知能検査の結果は、対象者の状態(何が出来て、何が出来ないか、どの機能が損なわれたと推定できるか)を推測する資料となり、リハビリ訓練の内容や、仕事として何ができるか、どのように生活していくかを考えていくうえで重要な指針となるのです。

イ 記憶についての検査結果~

    • WMS-R結果について
      WMS-R記憶検査は、国際的に最もよく使用される総合的な記憶検査方法と言われています。
      同検査は、言語及び図を使用した問題から構成されていて、一般性記憶、言語性記憶、視覚性記憶、注意・集中力、遅延再生の各能力を測定する下位検査を実施することによって、記憶の能力を測定するのです(表1)。   

      同検査の標準偏差は、100点±15点です。   

      例えば、と、ある人が、
      WMS-Rの検査結果が、
      言語性記憶70、視覚性記憶50未満、一般的記憶55、注意・集中力67、遅延再生50未満だったとすると、言語性記憶以外の記憶の能力について、全て障がい域を示す数値が記録されていると理解できます。

      表1. WMS-R構成

      しかし、記憶の能力の下位検査のうち、かろうじて言語性記憶については境界域という数値が示されていると読めます。この人に対しては、

      →言語による説明を反復することによって、言葉による説明を覚えることは出来る(言語性記憶70、言語性の対連合形成は認められる)ものの、
      他方、目で見ることを反復継続しても学習効果は得られにくい(視覚性記憶50未満)と判断でき、遅延再生(50未満)は困難で、一時的に記憶してもすぐに忘却し、記銘は難しい
      →リハビリ訓練や日常生活では、言語による説明を反復して、言葉によって説明を覚えてもらう方法を意識的に試みるなどの対応策が考えられるのです。

      例えば、
      ■「直前に言われたことを忘れる」
      ■「ATMでお金を引き出し、お金を置いてきたことがある」
      ■「同じことを何度も言う」
      といった症状に対し、
      →言葉による説明は覚えられるはずなので、「ATMでお金を忘れないように。」「メモをとるくせをつけなさい」などと繰り返すのです。

    • 日常の記憶力~「リバーミード行動記憶検査」テスト(日本版RBMT)
      「リバーミード行動記憶検査テスト」(日本版RBMT)とは、日常生活をシミュレーション(想定)した検査であり、記憶を使う場面を想定して日常の記憶力を測定する検査です。   

      「リバーミード行動記憶検査」テストの下位検査では、
      ■姓名(人の姓名記憶):「同居している人のお名前は誰ですか?」
      ■持ち物:被検査者の持ち物を借りて見えないところにしまって、検査終了後に返却を要求させる
      ■約束:(約束の記憶)
      ■絵:(絵の再認)
      ■物語:(物語の記憶、再生)
      ■顔写真:(顔写真の再認)、
      ■道順(辿る):部屋の中に設定された道順を検者が辿って見せ、直後と遅延後に被験者に辿らせてみる
      ■用件:道順検査時に、ある用事を、直後・遅延後に行わせてみる
      ■見当識:場所、日時を確認する(今、どこにいますか?)
      が検査されます。

      検査結果は、①標準プロフィール、 ②スクリーニングプロフィール に分けられ、記憶障がいが重度であると評価される点数は、①60歳以上は15点以下、②60歳以上は5点以下とされています。

      例えば、事故前には、車で配達の仕事をしていた人が、
      ■設定された道順を辿る機能にダメージを受けていて、
      ■同時に用件を達成したりする機能もダメージを受けている
      という検査結果が出た場合、
      「元の配達の仕事には戻らない方が安全だ」という判断が働くのです。

    • (言語)記憶についての検査結果~「火事の話」テスト
      「火事の話テスト」とは、16要素から成る短い火事の話をして、読み終わった直後と30分後に再生できた要素の数を得点とする聴覚による記憶力を測定する検査です。   

      健常成人は30分後の再生において10点以上はできるものと予測されています。

      例えば、火事の話をした直後の測定で16個の要素に対して4個しか再生しておらず、30分後の測定では16個の要素に対して1つも再生していない。

      話の直後から話の再生に失敗が目立ち、時間をおいてから再生した時には更に変容・欠落が顕著であった場合、
      「耳から聞いた情報については覚えにくい」
      と評価していくのです。必ずメモを持って能力を補って生活するよう訓練していくなどデータを活かしたリハビリをして円滑な社会生活に戻れるように頑張っていくのです。

    • (言語)記憶についての検査結果~「三宅式」テスト
      「三宅式」テストとは、2つずつ対にした有関連対語(たばこ・マッチ)と、無関連対語10対(少年・畳)を読んで聞かせた後に、片一方を読んでもう一方を再生させて聴覚による言語の記憶力を測定する検査をいいます。   

      満点は10点で、同じ事を3回繰り返し、点数を測定します。

      健常者の平均点は、有関連対語テストで1回目8.5点、2回目9.8点、3回目10点とされています。
      仮に、テストの回数を重ねても得点が上昇することもなく、極めて低い得点に終わっている場合、「聴覚による言語の記憶力が低下している」と推定できるのです。

    • (視覚)記憶についての検査結果~「REYの複雑図形」テスト
      「REYの複雑図形」テストとは、
      ①図形を見ながら描く描写
      ②その直後に図形を見ないで思い出して書く直後再生
      ③30分後に再び図形を見ないで記憶を頼りに再生する遅延再生
      の3つの検査から構成され、視覚による記憶を測定する検査です。
      模写の平均点を大幅に下回っていれば、「視覚による記憶が障害レベルに低下している」と推定されるのです。

ウ 注意力

      • 「かなひろい」テスト:視覚系~処理速度、選択的注意、干渉刺激への脆弱さ・注意の制御
        「かなひろい」テストとは、かなで書かれた物語文の中から「あ、い、う、え、お」の5文字を見落とさないように印をつけるテストです。
        処理速度や、選択的注意、干渉刺激への脆弱さ・注意の制御を測定する検査です。   

        30歳代の正解数の平均点は42.4点で、29点以下で低下を疑われ、また、見落とし率は、20%を超えると、注意の低下が疑われると解釈します。

      • 視覚注意力~「D-CAT(注意機能スクリーニング検査)」テスト

        D-CAT(注意機能スクリーニング検査)テストとは、ランダムに並んだ数字の中からある数字を抹消するというものであり、1文字、2文字、3文字の抹消を行い、作業量及びミス率等から注意の焦点化、持続、選択的注意、注意の切替え、注意の分割をテストし、処理能力と注意力を測定する検査です。   

        このテストは偏差値50が平均を示しています。

        もし、速度が遅いと正確できるものの、速度が速くなるとミス率が高まっている場合、作業の速度と正確さの両立が困難となっていると考えられるのです。

      • 聴覚注意力~「PASAT(情報処理能力の検査)テスト」
        PASAT(情報処理能力の検査)テストとは、ランダムに読み上げられる1-9の数字を1回ずつ足し算していくテストであり、聴覚注意力の評価に関するテストです。平均点は46点です。
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