③言語聴覚士(ST)さんとのリハビリ(高次脳機能障害の検査)
②作業療法士(OT)による検査
③言語聴覚士(ST)による検査
(3)③言語聴覚士(ST)による検査~コウジノウ君(架空人物です)に対する評価報告(なんとなくの理解の便宜用)
ア 言語聴覚士(ST)とはどんな専門家か
言語聴覚士は、言語や聴覚、音声、認知、発達、摂食・嚥下にかかわる障害に対して、障害のメカニズムを明らかにするための検査を実施し、訓練や指導、支援を行っていく専門職です。
理学療法士(PT運動療法、物理療法などを用いてリハビリをする)、作業療法士(OT、前述しました)など共にリハビリを実施していく専門家と理解すれば宜しいのではないでしょうか。
抽象的に説明してもわかりにくくなってしまうので、コウジノウ君(架空人物)に対する言語聴覚士(ST)による(架空の)検査、評価報告を下記に示します。
※なんとなくの理解の便宜として下さい。
イ <TBIルーチン検査>
○ WAB失語症検査:失語症の程度を把握する検査で検査得点から失語症のタイプ分類を試みた検査です。
―自発話、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成の8つの下位検査から構成されます。どのような検査項目を用いるかは、決まっていません。
非言語能力も評価できるように描画・積木問題・行為の検査などが含まれています。
例えば、↓こんな具合に報告がなされます。
- 継時的命令 64/80 再度繰り返すも、正答できず。修正が難しい様子。助詞の理解を要する課題で誤る。長くなると前半半分のみ理解している。助詞の理解、聴覚的な短期記憶の低下を疑う。
- 復唱 87/100 繰り返すも長くなると難あり。聴覚的な短期記憶の低下を疑う。
- 物品呼称 45/60 語性錯語、迂言あり。切手→「手紙です」
- 語想起 12語/1分 -15語/2分 同じ語の繰り返し使用2語あり。馬は3回使用。
- 抽象的な文章の読解 21/40 文意を考えずに、単語の意味から安易に答えを選択している印象。
- 漢字の構造を聞く 3/6
- 漢字の構造を言う 3/6
- 漢字単語の書き取り 4/6 鉛筆→「鉛第」
- 住所の書字 『渋谷区』までしか覚えていない。渋谷区へ引っ越してから5年位経過しているとのこと
※住所を覚えて、口頭で再現するということが出来ない様子だったので、住所を書いたメモを持ち歩く様に指導された。
(解説)
- 継時的命令テスト
継時的命令テストとは、検査者が口頭で言った通りのことを被検査者に行わせることによって理解障害を図るテストです。継時的命令は、意味や統合理解及び指示に従って動作などが同時に要求され、注意深く指示を聞く能力が必要となります。
そのため、このテストによる評価が低い場合、「注意力及び処理量の低下」が疑われます。健常者の平均値は、76.8/80です。
- 復唱テスト
復唱テストとは、検者が口頭で言ったことを、被検者が真似して同じ事を繰り返し、聴覚的な短期記憶を検査するテストをいいます。復唱テストの健常者の平均値は98.7/100で、聴覚的な短期記憶の低下が伺える場合、
- 物品呼称
物品呼称テストとは、被験者に特定の物品を示し、その呼称を答えてもらうテストであり、ターゲット語へのアクセスの可否・速度を測るテストです。コウジノウ君は、切手というべきところを手紙と言ったり、お水というべきところを煙草と言ってしまうなど、ターゲット語へのアクセス不良が認められます。
- 語想起
語想起テストとは、被験者に1分間でできるだけ多くの動物の名前を言って貰い、記憶力の状態を検査するテストです。20代健常者の平均値は、21語/1分です。コウジノウ君は、12語/1分と健常者の平均を大きく下回っており、記憶力の状態として語を回収する速度の低下や方略をすばやく切り替えるような柔軟性が低下していることが疑われます。
さらに2つの単語につき繰り返して使用し、「馬」については3回も使用しているなど短期記憶の低下を示す結果となりました。
○ SLTA-ST(標準失語症検査補助テスト):SLTAの26項目の何度ではカバーできない軽度の失語症の症状把握を目的としています。
↓例えば、こんな具合に報告がなされます。
- ■4コマまんがの説明(口頭):示した4コマ漫画(黒猫と白猫、鳥と鯨、)の起承転結を口頭及び書字で叙述させ、言語能力・視知覚だけでなく論理や推論など思考能力を測るテストです
黒猫と白猫/鳥と鯨 ともに6/6
主題の説明も2/2
口頭では2問ともよどみなく、流暢に説明が可能。書字では文が短く単純なものになり、説明不足となる。
濁点忘れの不注意な誤りも見られ、
→注意の持続に難があることが示唆される。 - ■ニュース文の聴理解:ニュース文の聴理解テストとは、検者が被験者にCD
録音された内容を二度聞かせ、その後、5W1Hの形で質問し回答してもらい、さらにもう一度聞かせ回答してもらうことで聴覚的な記憶力や学習の積み上げやすさを検査するテストです。健常者の平均値は、5.13/6です。コウジノウ君は、2.5/6→再度聞いて2.5/6 という得点で、聴覚的な記憶の低下、学習の積み上がりにくさを疑われました。
テープから流れている途中で、母親の方を振り返ることや、天井を仰ぎ見る様子が見られる。
→注意の持続の低下を疑う。落ち着かない様子あり、などと報告されました。
- ■呼称テスト 高頻度語45/55:被験者に特定の物品を示し、その呼称を答えてもらうテストをいい、ターゲット語へのアクセスの可否・速度を測るテストです。
例えば、「ノート」を示し、呼び名を答えてもらいます。→「本」(修正を促され)「違うんですか?書くやつ、紙・・・」
- 報告:ターゲット語に結びつきにくい印象あり。柔軟な思考の低下も影響している。意味の近い言葉を喚語すると、修正が難。語頭音ヒントは有効。→スッと答えられるように地道なリハビリ訓練が実施されていくのです。
○ 読解力診断テスト (小学校高学年レベル):5/15(5’40’’)
「最初の頃のストーリーを覚えていられないので、意味がわからなくなって、おもしろくない、わからなくなってイライラする」と終了。
→思考の耐久性の低下を疑う。
ウ 言語聴覚士STの報告例(状況を把握し、リハビリ訓練へ)
- ■訓練室内のものに反応され、場面を問わずに発言される様子がありました。その他全般的に言動が幼く、母親に依存的な様子が見られました。
- ■感情爆発されることがあり、対応に困ると母親は話されていました。
- ■注意の持続低下、思考の耐久性の低下、聴覚的な短期記憶の低下、学習の積み上がりにくさ、など高次脳機能障害を認めます。
- ■つい先ほど行った検査内容を忘れていることがあり、日常生活場面でも記憶の低下による支障が出ていることが推測されました。
- ■また、ターゲット語へのアクセスが不良な場面が見られました。
日常生活でも「お水とって」というつもりで「煙草とって」と言ってしまっていることがあるとのことです。 - ■「仕事を早くできるようになりたい、仕事しないとひま」
「太った」
「できるはずのことができない。本やゲームも先に進めない」
「前はもっと不安なくこなせたのに、イライラする 」
などと困っていることを、落ち着かない様子で話しました。
4、検査結果を踏まえての訓練の実施
各種検査の結果、事故からコウジノウ君は、「認知機能の回復」よりも損傷した能力を補うための「代償手段を獲得する」訓練を重視し、あわせて不適応状態、心理的問題に対する対処方法について指導を受けることになりました。
一般に、高次脳機能障害事案では、事故から2-3年程度で認知機能の向上はしにくくなる、回復しにくくなる、つまり症状固定に至ると知られています。
コウジノウ君の場合、事故より数年が経過していたため、認知機能の回復よりも「コウジノウ君に残されている機能を活かして社会生活を何とか送れるようにしよう」と考えられたのです。